日本の民話 (漫画)

水木しげる『日本の民話』：奇妙な世界への誘い

『日本の民話』は、水木しげるが『漫画アクション』に連載した漫画作品です。タイトルからは日本の昔話を題材にした作品集のように思えますが、実際には水木しげる独特の解釈と風刺が込められた、奇妙で不思議な物語が展開されます。

概要

本作は、日本の民話というよりも、水木しげるならではの視点で描かれた妖怪や不思議な出来事を題材にした短編シリーズです。各話は独立しており、一話完結型で展開されます。水木作品でお馴染みの「サラリーマン山田」が頻繁に登場しますが、各話の繋がりはなく、それぞれ異なる役回りを演じています。

連載は1967年8月10日号の『漫画アクション』創刊号から始まり、1969年5月8日号まで、約月1回のペースで全20回掲載されました。連載終了後、1969年8月には双葉社から『怪奇 日本の民話』として単行本が刊行されました。その後、各話はいくつかの短編集に収録されましたが、長らく単行本の再版はありませんでした。しかし、2006年に角川書店から『水木しげるのニッポン幸福哀歌(エレジー)』として文庫版が刊行され、再び読者の目に触れることとなりました。

各話あらすじ

以下に、各話のあらすじをまとめました。

役の行者：山で見つけた巻物を試した男たちが、不思議な力でお金を増やし、貧しい人々に配り始める。
一つ目小僧：未来が見える目を得た男が、絶望的な未来ばかりを見て、元の普通の目に戻ることを願う。
貧乏神：貧乏神を追い出す方法を見つけた男が、逆に貧乏神に取り憑かれてしまう。
猫の町：猫が多い町に婿入りした男が、嫁の正体が妖怪「猫又」だと知り、猫に転生する。
離魂術：老狐から離魂術を教わった男が、魂が抜けた肉体を老狐に乗っ取られてしまう。
人面草：漁夫が持ち帰った人面草を飼い猫が食べ、その猫の顔に腫れ物ができ、さらに男にも同じ腫れ物ができてしまう。
小豆洗い：妖怪保存協会の山田が、小豆洗いに文明を教えようとするが、小豆洗いは文明に失望してしまう。
幽霊屋敷：引っ越した家に現れる「手」に恐怖する劇画家が、最終的に「手」の指示に従って原稿を書き始める。
影女：下宿屋で捕獲した幽霊「影女」を開放した山田が、影女に家事を手伝ってもらう。
雨女：雨の日に訪れる雨女と関係を持った老人が若返るが、最終的には赤ん坊になってしまう。
帰って来た男：死んだ男が、自分の存在できる場所を求めて現世に戻るが、どこにも居場所がないと知る。
島：欲望が全て叶う島に人々は満足するが、次第に空しくなり島を去る。
大人物：死者を蘇らせる方法で西郷隆盛を呼び出した夫婦が、西郷の扱いに困り、再び死者に戻してしまう。
打ち出の小槌：手に入れた打ち出の小槌で贅沢な生活を送る男に、契約期間終了を告げる販売員が現れる。
管狐：管狐の力で理想の人物を体験できるようになった男が、元の生活が一番だと気づく。
ボヤ鬼：男の「ぼやき」を栄養にする妖怪に取り憑かれた山田が、人々に卵を付けていく。
時の神：結婚資金のために時の神に頼った山田が、時間を止めてお金を稼ぐが、その間に老け込んでしまう。
ぬっぺふほふ：漫画家が妖怪「ぬっぺふほふ」との約束を破り、過労死してしまう。
梅干し：梅干しの作用で知り合った女性との関係を深めるが、女性は他の人には見えず、最後は消えてしまう。
異次元の色気：弁天さんに一目惚れした男たちが、異次元の力を得て争うが、最後は2人とも消されてしまう。

特徴

『日本の民話』は、単なる怪談や奇談ではなく、人間の欲望や愚かさ、そして世の中の不条理を独特の視点で描いた作品です。水木しげるの独特な絵柄と、ブラックユーモア溢れる展開は、読者を奇妙な世界へと引き込みます。また、各話に登場する妖怪や不思議な存在は、日本の民間伝承をベースにしつつも、水木しげる独自の解釈が加えられています。

収録単行本

『水木しげるのニッポン幸福哀歌(エレジー)』（角川文庫、2006年）
『シリーズ日本の民話[全]／怪奇幻想旅行[全]』（講談社〈水木しげる漫画大全集〉、2016年）


『日本の民話』は、水木しげるの独特な世界観を堪能できる作品です。ぜひ一度手に取って、奇妙で不思議な物語を体験してみてください。

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