日本号 (槍)

日本号：天下三名槍と酒豪の逸話

日本号は、室町時代後期に作られたとされる槍で、福岡市博物館に所蔵されています。天下三名槍の一つに数えられ、その歴史と、黒田家家臣・母里友信にまつわる有名な逸話から、「呑み取りの槍」の異名も持ちます。

伝来と逸話

無銘ながら、大和国金房派の作と推定されている日本号。元々は皇室の所有物であり、「槍に三位の位あり」と謳われたという伝承が残っています。正親町天皇から足利義昭、織田信長、豊臣秀吉と、数々の権力者の手に渡った後、福島正則に与えられました。

福島正則は日本号を大変気に入り、自慢の槍として所持していました。しかし、ある日、黒田孝高の家臣である母里友信が正則の屋敷を訪問した際、酒豪として知られる友信を、正則は繰り返し酒宴に誘います。しかし、使者である友信は固辞し続け、正則はついに苛立ち、「黒田家には豪傑はおらぬ」とまで言い放ちます。そして、大杯に酒を注ぎ、「それを飲み干したら、何でも望む物をやろう」と友信に強要しました。

友信は、その大杯の酒を一気に飲み干すと、約束通り日本号を所望しました。正則は後悔しましたが、武士の約束は絶対であるとして、日本号を友信に与えます。この逸話が「呑み取りの槍」の由来となり、『黒田節』にも歌われ、日本号の名を広く知らしめることとなります。

しかし、日本号を手放したことを後悔した正則は、黒田長政を介して日本号の返還を申し入れましたが、友信はそれを拒否。両者の関係が悪化しかけましたが、竹中重利の仲裁により、兜を交換して和解しました。

なお、後藤基次が朝鮮出兵で窮地にあった母里友信を救ったという「槍の又兵衛」の逸話は、江戸時代の創作であり、史実ではありません。ただし、日本号の拵えには刀傷が残っており、実際に戦場で使用された可能性も示唆されています。

その後も代々母里家に伝来した日本号ですが、明治30年代に持ち出され、様々な人物の手に渡ったのち、大正7年に大野仁平の遺族から旧福岡藩士出身の実業家・安川敬一郎男爵に買い取られ、黒田家に贈与されました。そして、1978年、黒田長礼侯爵の遺志により、福岡市博物館に寄贈され、現在に至ります。

日本号の特徴

刀身

穂長（刃長）は79.2cm、茎長は80.3cm、全長は321.5cm。槍の樋（刃中央の溝）には倶利伽羅龍が浮き彫りにされています。槍本体の重さは912.7グラム、拵も含めた総重量は2.8キログラムです。

外装

現在は青貝螺鈿貼拵が付属していますが、元々は熊毛製の毛鞘に総黒漆塗の柄だったと考えられています。

写し・復元槍

日本号は、その伝来と美しさ、完成度の高さから、多くの写しが制作されています。特に刀身彫刻の腕に覚えのある刀職は、生涯で一度は日本号の写しに挑戦すると言われるほどです。広島城天守閣などにも写しが展示されています。故隅谷正峯や月山貞一といった人間国宝による写しも有名です。

日本号は、歴史と逸話、そしてその美しさから、日本の名槍として語り継がれる存在であり続けています。

もう一度検索