黒田節

黒田節：酒と武士道、そして歴史が織りなす民謡

福岡県福岡市に伝わる民謡「黒田節」は、その力強い旋律と酒をテーマにした豪快な歌詞で知られています。「酒は呑め呑め呑むならば 日本一（ひのもといち）の この槍を 呑み取るほどに 呑むならば これぞ真の 黒田武士」という有名な一節からも、その独特の世界観が伝わってきます。

黒田節の起源は、福岡藩の武士たちが歌っていた「筑前今様」に遡ります。雅楽の越天楽を基調とした旋律に、さまざまな歌詞が付け加えられて発展していきました。現在歌われている歌詞は、黒田長政の家臣・母里友信と福島正則にまつわる逸話に基づいています。

この逸話では、酒好きで知られる福島正則のもとへ、同じく酒豪だった母里友信が使いとして派遣されます。長政は酒の席での失態を恐れて友信に飲酒を禁じますが、正則は友信を盛んに酒宴に誘います。ついに巨大な盃で「これを飲み干せば、何でも褒美を取らす」と挑発され、友信はそれを飲み干してしまいます。その褒美として、正則が秀吉から賜った名槍「日本号」を手に入れたのです。酔いが覚めた正則は日本号の返却を懇願しますが、友信はこれを拒否し、のちの朝鮮出兵で武功を挙げました。

黒田節の歌詞はこの痛快な逸話を反映しており、豪快な酒宴の雰囲気と武士の気概が絶妙に融合しています。NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』でもこの逸話が描かれ、広く知られるきっかけとなりました。

さらに、幕末の福岡藩家老・加藤司書の今様「皇御國（すめらみくに）の武士（もののふ）は～」が加えられる場合もあります。歌詞のバリエーションもまた、黒田節の奥深さを示しています。

昭和初期には、人気芸者歌手である赤坂小梅によってレコード化され、広く世に知られるようになりました。当初は「黒田武士」というタイトルで発売され、歌詞は戦意高揚の内容でしたが、戦後は一部変更され「黒田節」として再発売されました。赤坂小梅の十八番として「黒田節の小梅か、小梅の黒田節か」と言われるほど、彼女の個性と結びついた歌となりました。

黒田節は七五調の典型的な民謡であり、『水戸黄門』の主題歌など、他の有名な民謡と旋律が共通している点も興味深い特徴です。平尾昌晃やシャ乱Qなど、現代のアーティストによるカバーも存在し、時代を超えて愛され続けていることが分かります。

2014年には、黒田節の逸話の発祥の地とされる京都伏見の御香宮神社門前に、「黒田節誕生の地」の立て札が設置されるなど、その歴史的、文化的価値が改めて認識されています。

黒田孝高・黒田長政親子の銅像はありませんが、家臣である母里友信の銅像は博多駅前と光雲神社に存在し、博多人形の題材としても人気があります。また、郵便記念切手にも採用されたことがあるなど、黒田節は福岡のみならず、日本の文化に深く根付いた民謡と言えるでしょう。

様々な歌詞が存在し、時代や状況に応じて変化してきた黒田節は、単なる民謡としてだけでなく、日本の歴史や文化を反映する貴重な資料でもあります。その豪快な歌声と力強い旋律は、これからも多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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