日本少年

『日本少年』は、実業之日本社によって明治39年（1906年）に創刊された月刊少年雑誌です。昭和13年（1938年）に廃刊となるまで、約420冊が発行されました。同時期に発行されていた『少年倶楽部』とは異なり、『日本少年』は編集者自身も小説を執筆するという特徴がありました。浅原六朗や渋沢青花といった編集者たちが、作家としても活躍していたのです。

著名な推理作家、横溝正史も少年時代に『日本少年』を愛読しており、読者投稿欄に作品を投稿した記録が残っています。大正5年（1916年）4月号には、ペンネーム「横溝葭秋」で「宿題を怠った日」という作文を投稿し、選外佳作に選ばれています。

『日本少年』は、特に1921年頃には発行部数が約20万部に達し、当時の少年雑誌としては最大規模を誇っていました。その人気を支えた要因の一つに、挿絵画家である高畠華宵の存在があります。彼女の美しい挿絵は、多くの少年たちを魅了しました。特に、池田芙蓉の小説『馬賊の唄』が連載されていた時期は、雑誌の最盛期と言えるでしょう。

一方、競合誌である大日本雄弁会講談社の『少年倶楽部』は、1921年当時は発行部数が2万8千部と『日本少年』を大きく下回っていました。1925年には、高畠華宵への稿料引き下げを申し入れたことで、彼女の寄稿を拒否されるという危機に直面しました。しかし、『少年倶楽部』は、この危機を乗り越えるため、読み物中心の誌面構成へと転換します。さらに、漫画『のらくろ』の連載開始、工作の付録、編集部紹介記事の掲載、読者投稿欄の刷新など、次々と新たな試みを導入しました。これらの戦略が功を奏し、『少年倶楽部』は人気雑誌へと成長していきます。

『日本少年』は、競合誌の躍進に対抗することができず、次第に衰退していきました。最終号である昭和13年（1938年）10月号の連載作品には「次号に続く」という記述があり、急な廃刊決定を暗示しているかのようです。

『日本少年』には、池田芙蓉の『馬賊の唄』や大下宇陀児の『黒星章』（後に『黒星団の秘密』として単行本化）など、多くの長編小説が掲載されました。これらの作品は、当時の少年たちの心を掴み、雑誌の人気に貢献したと言えるでしょう。しかし、時代と共に変化する読者の嗜好や、競合誌の革新的な試みによって、『日本少年』は歴史の舞台から姿を消すこととなりました。その存在は、日本の出版史、そして少年文化史において、重要な一ページを刻んでいると言えるでしょう。

参考文献
加藤丈夫『「漫画少年」物語 編集者加藤謙一伝』都市出版、2002年
渋沢青花『大正の『日本少年』と『少女の友』―編集の思い出』 千人社、1981年

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