日本振袖始

『日本振袖始』は、近松門左衛門によって創作された時代物浄瑠璃であり、全五段で構成されています。初演は1718年（享保3年）2月、大坂竹本座にて行われました。この作品は、日本神話に登場する八岐大蛇伝説を基に描かれており、その壮大な物語が特徴です。

現在、一般的に上演されるのは、物語のクライマックスである五段目、通称「大蛇退治の段」です。この段では、素戔嗚尊が八岐大蛇を退治する場面が描かれています。物語は、出雲国の山奥に住み着いた八つの頭を持つ大蛇・八岐大蛇が、村人に恐れられ、毎年美しい娘を生贄として差し出させていたという設定から始まります。その年、生贄となる稲田姫を襲おうとする大蛇は、岩長姫の姿を借りて現れます。しかし、酒の香りに誘われ、甕に入った酒を飲み干し、ついには稲田姫をも飲み込んでしまいます。そこに、稲田姫の恋人である素戔嗚尊が現れ、大蛇との激闘が繰り広げられます。実は、素戔嗚尊は過去に大蛇に十握の宝剣を奪われており、その復讐を果たすべく、酒に毒を仕込んでいました。毒酒に酔った大蛇は本性を表し、素戔嗚尊との間で激しい戦いが繰り広げられます。

この作品の題名である「振袖始」は、劇中で稲田姫が熱病に苦しむ際、素戔嗚尊がその着物の袖を刀で切り裂く場面に由来しています。

歌舞伎においては、1971年12月に国立劇場で六代目中村歌右衛門が「岩長姫実は八岐大蛇」を演じて復活上演されました。その後も不定期に国立劇場で上演が行われ、2014年にはシネマ歌舞伎として上映もされています。

人形浄瑠璃文楽では、1883年（明治16年）以降上演が途絶えていましたが、2010年（平成22年）7月に国立文楽劇場で127年ぶりに復活上演されました。文楽では、「ガブ」と呼ばれる特殊な首の仕掛けが用いられており、岩長姫（八岐大蛇）の人形がその姿を変化させる演出が特徴です。この演出は、観客に大きなインパクトを与えています。

『日本振袖始』は、日本の伝統芸能である歌舞伎と文楽の両方で上演され、その壮大な物語と迫力ある演出は、多くの観客を魅了し続けています。この作品は、近松門左衛門の卓越した脚本と、役者たちの熱演によって、時代を超えて愛され続けている傑作と言えるでしょう。

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