日本自動車

日本自動車株式会社：日本の自動車輸入史に名を刻んだ老舗ディーラー

日本自動車株式会社は、明治時代後期から昭和40年代前半まで存在した、日本の自動車輸入業界におけるパイオニア企業です。その歴史は、大倉財閥の2代目総帥にして、自らもカーマニアとして知られた大倉喜七郎氏によって始まりました。

大倉喜七郎氏は、1907年（明治40年）にはフィアットで英国のレースに出場し、好成績を収めるなど、自動車に対する情熱を燃やしていた人物でした。彼の情熱は、1909年11月の日本自動車合資会社設立へと繋がり、1914年6月には株式会社へと組織変更されました。本社は東京の赤坂溜池町に置かれ、全国各地に支店網を展開するなど、当時としては大きな規模を誇る企業へと成長を遂げました。

日本自動車株式会社の取り扱い車種は多岐に渡りました。大倉喜七郎氏が愛用していたフィアットに加え、アメリカ車のハドソン、ドイツ車のDKWなど、様々なブランドの車を輸入販売していました。特に、戦前の日本においてハドソンがビュイックと肩を並べるほどの高い知名度を誇ったのは、日本自動車株式会社という業界最古参企業の存在と、その背後にあった大倉財閥の強力な経済力によるところが大きかったと言えるでしょう。

事業内容は、自動車販売にとどまりませんでした。戦前には、ハーレーダビッドソンなどのオートバイの輸入や、後のくろがね三輪トラックの前身となる「ニューエラ」号の製造、輸入されたオースチン・7の車体製作など、多様な事業を展開していました。輸入車の販売に合わせ、車体のサイズ調整など、顧客ニーズに合わせた柔軟な対応力も持ち合わせていたことが伺えます。

戦後、財閥解体によって大倉家の支配から離れた日本自動車株式会社は、輸入制限という逆風の中、経営の維持に苦しみました。しかしながら、時代の変化に対応すべく、民生デイゼル工業（後の日産ディーゼル、現UDトラックス）のトラックやバス、そして軽自動車の草分け的存在である日本軽自動車のNJ号などの販売にも進出し、さらにカー用品販売にも事業を拡大しました。これらの取り組みは、変化する市場環境の中で生き残りを図るための、同社の強い意志の表れと言えるでしょう。

しかし、1960年代に入ると、状況は徐々に厳しくなっていきました。フィアットの販売は、西欧自動車（後の西武自動車販売）との共同販売となり、1966年3月末には完全に撤退。ランブラーは山洋自動車、アウディはヤナセへと販売権が移り、日本自動車株式会社の取り扱い車種は減少していきました。かつての勢いは失われ、老舗ディーラーとしての地盤沈下は明白でした。

CAR GRAPHIC誌には1968年前半までハドソンの後継車種であるランブラーとDKWの広告が掲載されていましたが、1968年5月には日本自動車輸入組合（JAIA）を脱退。そして、日本自動車株式会社の歴史は幕を閉じました。長きに渡り日本の自動車輸入業界を牽引してきた老舗ディーラーの消滅は、時代の流れと競争の激化を象徴する出来事であったと言えるでしょう。日本自動車株式会社の歴史は、日本の自動車産業の変遷を語る上で欠かすことのできない重要な一章です。

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