日根野吉明

日根野吉明：転封と治水事業、そして断絶した大名家

日根野吉明は、安土桃山時代から江戸時代前期にかけて活躍した、重要な役割を担った大名です。信濃国諏訪藩、下野国壬生藩、そして豊後国府内藩と、生涯を通じて複数の藩を治めるという、変化に富んだ人生を送りました。その過程で、数々の重要な出来事に関与し、一方で領民の生活向上にも尽力した、複雑な人物像が浮かび上がります。

生涯と転封

日根野吉明は天正15年（1587年）、近江国平松城で日根野高吉の長男として誕生しました。慶長5年（1600年）、父の高吉が上杉征伐の最中に病死したため、家督を継ぎました。幼少期から戦乱の世を生き抜き、会津への出陣や上田城攻撃に参加。関ヶ原の戦いでは、高島城の守備を任されました。慶長6年（1601年）、徳川家康に初めて謁見し、「吉明」と名乗ることを許されます。

その後、慶長7年（1602年）、信濃国諏訪から下野国壬生へ移封となりました。石高は諸説ありますが、大幅な減封であったことは間違いありません。慶長19年（1614年）からの大坂の陣では、徳川方に従い武功を挙げました。元和2年から3年（1616年から1617年）にかけては、日光東照宮の造営において、本多正純の下で副奉行を務めるなど、幕府の重要な事業にも関与しました。元和3年（1617年）、徳川秀忠が日光社参の際に壬生城に宿泊した記録も残っています。寛永11年（1634年）、豊後国府内藩へ2万石で加増移封され、その地で生涯を終えることになります。

島原の乱への参加

寛永14年（1637年）に勃発した島原の乱では、幕府から帰国を命じられました。これは、豊後に配流されていた松平忠直の動向を警戒したためとされています。また、島原出陣する府内目付の交代に伴い、吉明は兵を貸し出しています。板倉重昌の戦死後、吉明は自ら兵400人を率いて島原へ向かい、松平信綱からの命令を受け、忠直の監視を命じられました。島原の乱終結後、吉明はキリシタンの動向調査のためと推測される長崎への三度にわたる赴任を経験しました。

府内藩政と治水事業

府内藩主として、吉明は藩政改革に尽力しました。着任当時は干害や水害が頻発していたため、城下内外における工事や寺社の修理、そして大規模な開削事業を積極的に推進しました。寛永16年（1639年）には浜の市を開設し、商業振興にも取り組みました。寛永18年（1641年）からの寛永の大飢饉では多くの餓死者が出ましたが、吉明は長宝水、上淵井手、永宝水、そして初瀬井路などの井路を開削し、数百ヘクタールの農地に用水を供給しました。特に、全長約16kmに及ぶ初瀬井路（初瀬川）は、現在も地域住民に貢献し、吉明の功績を顕彰する重要な史跡となっています。また、円寿寺や金剛宝戒寺などの寺社への寄進も行い、宗教面でも貢献しています。領民からは厳しい法令で恐れられた一方で、治水事業による功績から現在も顕彰されています。

吉明の死と日根野家の断絶

明暦2年（1656年）、吉明は71歳で亡くなりました。嫡男の吉雄は既に亡くなっており、後継者問題を抱えていました。弟の養子を後継者にしようとしましたが、家臣間の反対にあい、結局、吉明の死をもって日根野氏は断絶。一族は旗本として存続することとなりました。府内城は幕府の管理下となり、その後、松平忠昭に相続されました。

日根野吉明は、転封を繰り返しながらも、それぞれの地で治水事業や寺社整備など領民のための施策を行い、その功績は現在も語り継がれています。しかし、家督相続問題による断絶という、複雑な最期を遂げた大名として、歴史に名を残しています。

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