日純 (中山門流)

日純（にちじゅん）

日純は、江戸時代後期に活躍した日蓮宗の僧侶で、法華経寺の貫首という要職を務めました。別名を日啓（にっけい）とも呼ばれています。彼は、第11代将軍徳川家斉の側室である専行院の実父としても広く知られています。この繋がりが、彼の生涯に大きな影響を与えることになりました。

生涯

日純は、元々正栄山仏性寺の役僧でした。その後、中山法華経寺の智泉院の住職になったとされています。彼と将軍家との関わりは、娘の伊根（後の美代）が中野清茂の屋敷に奉公に上がったことから始まりました。美代は後に清茂の養女となり、大奥に奉公することになりました。美代が家斉の寵愛を受けるようになると、日純が住職を務める智泉院は将軍家の御祈祷所となりました。

美代は、普段は外出が許されない大奥の女中たちが、お参りを名目に智泉院を訪れるように仕向けました。智泉院では、若い美僧たちが接待役を務め、大奥の女性たちは彼らに夢中になったと伝えられています。このことが、智泉院での大奥の女性たちと若い僧たちの密会や遊興をエスカレートさせ、社会問題として取り上げられるようになりました。

これまで、同様の密会事件が感応寺でも行われていたと信じられてきましたが、これは誤りです。感応寺は池上本門寺の末寺であり、法系が異なる中山法華経寺の日純が住職になることはあり得ません。この誤解は、大谷木醇堂の「燈前一睡夢」で智泉院での密通事件と感応寺破却の一件が混同されたことが原因とされています。

第12代将軍徳川家慶が政治を行うようになると、老中首座の水野忠邦が天保の改革を開始し、家斉の「大御所時代」に緩んだ綱紀の粛正に乗り出しました。忠邦は寺社奉行阿部正弘に命じて智泉院を摘発しました（智泉院事件）。その結果、住職であった日純は捕縛され、遠島に処されましたが、刑が執行される前に獄中で亡くなりました。

日純の生涯は、僧侶でありながら、将軍家の権力争いに巻き込まれ、最終的には悲劇的な結末を迎えることになりました。彼の人生は、当時の社会情勢や宗教界の腐敗を映し出す鏡とも言えるでしょう。

もう一度検索