専行院

専行院（せんこういん）とは

専行院（1797年 - 1872年）は、江戸幕府11代将軍・徳川家斉の側室です。初名は伊根、俗名は美代といいました。その生涯は、将軍の寵愛を受ける一方で、様々な事件に関わるなど、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと大奥入り

出自には諸説ありますが、智泉院の住職・日啓の娘とする説が有力です。中野家の菩提寺が日啓のいた仏性寺だった縁で、駿河台の中野清茂の屋敷に奉公に上がりました。その後、清茂の養女となり、大奥へ奉公することになりました。

将軍・徳川家斉の側室として

家斉の側室となった専行院は、文化10年（1813年）に溶姫、文化12年（1815年）に仲姫、文化14年（1817年）に末姫を産みました。仲姫は夭折しましたが、溶姫は加賀藩主・前田斉泰、末姫は安芸国広島藩主・浅野斉粛に嫁ぎました。

家斉からの寵愛は深く、専行院は日啓が住職を務める智泉院を将軍家の御祈祷所としました。また、普段は外出が許されない大奥の女中たちが、息抜きのため智泉院へ参拝することを許しました。智泉院には若い美僧がおり、大奥の女性たちをもてなしたと伝えられています。しかし、この智泉院での密会・遊興がエスカレートし、問題視されるようになりました。

智泉院事件とその後

専行院が家斉にねだって建てさせた感応寺でも同様のことが行われていたとする説がありましたが、これは誤りであることが判明しています。実際には、感応寺は池上本門寺の末寺であり、日啓が住職を務めることはあり得ませんでした。

娘の溶姫が嫁いだ前田家との関係では、専行院が孫の慶寧を将軍後継者にしようと、家斉の遺言書を偽造したという噂もありましたが、広大院や老中・水野忠邦によって阻止されました。

家斉の引退後、専行院は大御所家斉に従い、西の丸大奥に移り住みました。家斉の死後、専行院は落飾し、二の丸に居住しました。

家斉の死後、12代将軍・徳川家慶の時代になると、老中首座の水野忠邦が天保の改革を始めました。その中で、智泉院事件が発覚し、日啓は遠島処分（後に獄死）となりました。養父である中野清茂も連座し、登城禁止などの処分を受け、失意のうちに亡くなりました。専行院自身も一時押込となったとされています。

晩年と死

三田村鳶魚は、専行院が江戸城から追放され、娘の溶姫の元に引き取られたとしましたが、それを裏付ける史料はありません。一方で、二の丸で家斉の位牌を守っていたという証言もあり、少なくとも徳川家茂の時代まで江戸城にいた可能性が高いです。

専行院は、明治5年（1872年）に文京区の講安寺で76歳で亡くなりました。当初は向丘の長元寺に葬られましたが、後に金沢市の野田山墓地（前田家墓地）に改葬されました。法名は専行院殿舜沢亮照大禅定尼です。

関連作品

専行院を題材とした作品は多数存在します。以下に主な作品を挙げます。

映画

かげろう絵図　（1959年・大映　演：木暮実千代）
御存じいれずみ判官　（1960年・東映　演：松風はる美）
徳川の女帝　大奥　（1988年・にっかつ　演：竹井みどり）

テレビドラマ

大奥　（1968年・関西テレビ　演：稲垣美穂子）
松本清張のかげろう絵図　（1983年・フジテレビ　演：中島ゆたか）
遠山の金さんII　（1986年テレビ朝日　演：中島葵）
江戸を斬るVII　（1987年・ＴＢＳ　演：中島ゆたか）
また又・三匹が斬る!　（1991年・テレビ朝日　演：神保美喜）
「大奥」 第一部～最凶の女～　（2016年・フジテレビ　演：沢尻エリカ ）
松本清張スペシャル かげろう絵図　（2016年・フジテレビ　演：中村優子 ）

もう一度検索