日野草城

日野草城：新興俳句の旗手、その変遷と生涯

日野草城（1901年7月18日 - 1956年1月29日）は、日本の俳人であり、その革新的な作風で昭和初期の俳句界に大きな足跡を残しました。本名は克修（よしのぶ）。東京に生まれ、伝統俳句から新興俳句へと移行し、晩年は静謐な境地に至るという、多様な変遷を遂げた俳人です。

生涯

東京市下谷区（現在の台東区）で生を受けた草城は、幼少期を朝鮮で過ごし、京城中学校（現在のソウル高等学校）で学びました。帰国後、第三高等学校、京都帝国大学へと進み、法学部を卒業後、大阪海上火災保険（のちの大阪住友海上火災保険）に入社。会社員として勤務する傍ら、俳句への情熱を燃やし続けました。1949年に肺結核のため退職してからは、病床で句作に専念しました。

父の影響で俳句に親しんだ草城は、早くから「ホトトギス」に投句し、注目を集めました。三高時代には俳句会を創設し、山口誓子らと交流を深めました。1920年には同人誌「京鹿子」を創刊し、俳句の世界に足を踏み入れます。「ホトトギス」では高濱虚子に師事し、同誌の巻頭を飾るなど、若くしてその才能を開花させました。

新興俳句運動の旗手として

草城の名を世に知らしめたのは、1934年に発表した連作「ミヤコホテル」でした。新婚初夜をモチーフにしたエロティックな句は、大きな反響を呼びましたが、同時に俳壇内外で論争を巻き起こしました。客観写生、花鳥諷詠を重んじる虚子からは批判を受け、「ホトトギス」を離れることになります。しかし、室生犀星など一部の文学者からは、その革新性が評価されました。

1935年には自ら「旗艦」を創刊し、主宰として無季俳句を提唱しました。エロティシズムや社会風刺を取り入れた句は、新興俳句運動の新たな潮流となり、多くの俳人に影響を与えました。

晩年の境地

戦後、病に倒れた草城は、これまでの作風から一転し、静謐で内省的な句を詠むようになります。1949年には「青玄」を創刊し、主宰として新たな境地を切り開きました。晩年は緑内障で片目を失明するなど、苦難に見舞われましたが、その中で見出した生の喜びや悲しみを、穏やかな筆致で表現しました。1955年には虚子に許され、「ホトトギス」に復帰。翌年、心臓衰弱のため54歳で生涯を閉じました。

作風と評価

草城の俳句は、その時代ごとに変化を見せています。初期は写生を基礎とした華麗な世界観が特徴でしたが、「ホトトギス」離脱後は無季俳句や連作俳句に挑戦し、現代的なテーマを積極的に取り入れました。晩年は、病床での生活を通して、日常の中に潜む感情を丁寧に描写しました。

代表句としては、「春暁や人こそ知らね木々の雨」「高熱の鶴青空に漂へり」「見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く」などが挙げられます。山本健吉は草城を「極端な早熟型の極端な晩成型」と評し、後期の作品を高く評価しました。

新興俳句運動を牽引し、俳句の可能性を広げた日野草城。その革新的な精神と、時代とともに変化した作風は、今もなお多くの俳人に影響を与え続けています。

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