明命帝

明命帝（めいめいてい、ミンマンてい、Minh Mạng、1791年5月25日 - 1841年1月20日）は、ベトナム阮朝の第2代皇帝です。初代皇帝である嘉隆帝の四男として生まれ、父帝の崩御後、1820年に帝位を継承しました。諱は阮福膽（Nguyễn Phúc Đảm）でしたが、後に阮福晈（Nguyễn Phúc Kiểu）と改名しています。

明命帝の治世において、阮朝は大きな変革を遂げました。まず、国号を「越南」（ベトナム）から「大南」（ダイナム）へと改称しました。この変更は、中国の南方というニュアンスを持つ「ベトナム」という国号を避け、中国を宗主国としながらも、自らを主体とする中華的な世界秩序を形成しようとする小中華思想の表れとされています。つまり、明命帝はベトナムを単なる中国の属国ではなく、東アジアにおける中心的な存在として位置づけようとしたのです。

対外政策においては、明命帝は非常に閉鎖的な姿勢を取りました。西洋諸国との通商拡大を求めるフランスの交渉を拒絶し、自国の伝統的な秩序を守ろうとしました。また、カンボジアへの軍事遠征を実施しましたが、これは失敗に終わりました。しかし、この遠征は周辺諸国に阮朝の軍事力を示すこととなり、一定の脅威を与えたと言えるでしょう。さらに、山岳地帯に居住する少数民族に対する統制を強化し、国内における支配体制を確立しようと努めました。

内政面では、明命帝は中国的な中央集権化を徹底的に進めました。ベトナム各地に省県制を導入し、地方行政を中央政府の管轄下に置きました。官吏の登用制度においては、建国当初から実施されていた科挙に加えて、殿試（最終試験）を導入し、能力主義的な官僚制度を確立しようとしました。これらの改革は、阮朝の行政効率を高める一方で、地方の反発を招くことにもなりました。

明命帝の政策は、キリスト教に対する弾圧を招きました。1836年には、ヨーロッパから派遣された宣教師7人を処刑し、多くのキリスト教徒を弾圧しました。この弾圧により、多くのキリスト教徒が山岳地帯へと逃れることとなりました。これは、明命帝が伝統的な価値観を重視し、西洋的な思想や文化が国内に浸透することを恐れた結果であると考えられます。

明命帝の治世は、阮朝の歴史において重要な転換点となりました。国号の変更、中央集権化の推進、対外的な閉鎖政策、そしてキリスト教弾圧など、その政策は国内だけでなく、周辺諸国にも大きな影響を与えました。彼の政策は、国内の反乱を招く要因ともなりましたが、阮朝の国家体制を確立する上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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