明瞭度

明瞭度（Articulation）とは

明瞭度とは、音声通信において、どれだけ正確に音声が伝わるかを示す尺度です。具体的には、発音された単音や音節が、受信者にどれだけ正確に聞き取られたかの割合をパーセントで表します。単音を用いた場合は「単音明瞭度」、音節を用いた場合は「音節明瞭度」と呼ばれます。

明瞭度は、電話などの音声通信における品質評価、劇場や駅などの音響設計、補聴器の評価、難聴者の聴取能力評価など、様々な分野で重要な役割を果たしています。

明瞭度と関連する評価

音声通信の品質を評価する指標には、明瞭度の他に、音の自然さを含む総合的な品質を評価する平均オピニオン評点（MOS）、内容の分かりやすさを評価する了解度（intelligibility）などがあります。

• - 明瞭度: 無意味な単音や音節を用いて、聞き取れた割合を評価します。
• - 了解度: 意味のある単語や文章を用いて、同様に評価します。

明瞭度と了解度は密接に関連しており、一般的に明瞭度が高ければ了解度も向上します。ただし、単語や文章の中には不明な音節があっても、文脈から推定できる場合があるため、明瞭度が多少低下しても了解度が大きく変わらないこともあります。

明瞭度の分類

明瞭度は、評価対象となる音の種類によって以下のように分類できます。

• - 音節明瞭度: 音節を対象とした明瞭度
• - 単音明瞭度: 単音を対象とした明瞭度
• - 母音明瞭度: 母音のみを対象とした明瞭度
• - 子音明瞭度: 子音のみを対象とした明瞭度

明瞭度の測定方法

明瞭度の測定は、通常、ランダムに並べられた単音、音節、または意味のない2〜3音節の組み合わせを受験者に聞かせ、聞こえた音を答えさせることで行います。しかし、雑音を含む環境での測定は難しく、評価者の訓練が必要であったり、評価結果が安定しないなどの課題があります。また、評価に時間がかかり、測定環境によって結果が変動しやすいという欠点もあります。

明瞭度を推定する客観評価法

上記のような課題から、物理的な測定に基づいて明瞭度や了解度を推定できる客観評価法の研究が進められてきました。代表的な指標として、以下のものがあります。

• - 明瞭度指数（Articulation Index, AI）
• - 音声了解度指数（Speech Intelligibility Index, SII）
• - 音声伝達指標（Speech Transmission Index, STI）
• - 室内音響音声伝達指標（Room Acoustical Speech Transmission Index, RASTI）

各客観評価法について

明瞭度指数（Articulation Index, AI）

明瞭度指数（AI）は、1947年にフレンチとスタインバーグによって基本的な手法が提案され、1950年にフレッチャーらによって改良された指標です。1969年にANSIによって標準化されました。この指標は、音声情報が異なる周波数帯域のチャネルを通じて伝達されるという考え方に基づいており、各周波数帯域での信号対雑音比と周波数別の係数から、周波数ごとの明瞭度指数を求め、それらの総和を全体の明瞭度指数とします。AIは0から1の値をとり、大きいほど明瞭度が高いことを示します。0.3以下は「悪い」、0.3から0.5は「普通」、0.5から0.7は「良い」、0.7より大きい場合は「非常に良い」と評価されます。

音声了解度指数（Speech Intelligibility Index, SII）

音声了解度指数（SII）は、1997年にANSIで標準化されたAIの改良版です。AIと同様に周波数帯域ごとの信号対雑音比を考慮しますが、STIの考え方も取り入れ、残響や歪みの影響も評価対象としています。SIIも0から1の値をとり、大きいほど明瞭度が高いことを示します。また、分割する周波数帯域の数を選択できるため、精度と簡便さのバランスを考慮した測定が可能です。

音声伝達指標（Speech Transmission Index, STI）

音声伝達指標（STI）は、残響や雑音による音声波形の変化を評価する指標で、主に建築音響の設計や評価、通信分野で用いられます。STIは、1973年にステーネケンとハウトガストによって発表され、ISOやIECで規格化されています。STIも0から1の値をとり、大きいほど明瞭度が高いことを示します。STIは、光学分野で使われる変調伝達関数（MTF）を応用しており、残響や雑音によって音声の振幅の時間的変動が小さくなるほど、情報が伝わりにくくなるという考え方に基づいています。

室内音響音声伝達指標（Room Acoustical Speech Transmission Index, RASTI）

室内音響音声伝達指標（RASTI）は、STIを簡略化したもので、主に建物の音響評価に用いられます。RASTIは500Hzと2kHzの2つの周波数帯のみを測定するため、短時間での測定が可能です。携帯型の音響測定器などで簡易的に測定できるため、広く利用されています。

明瞭度の研究の歴史

明瞭度の研究は古く、1910年にはキャンベルが電話回線の性能測定に子音＋母音の音節を使用しました。その後、電話の発達とともに、ベル研究所を中心に様々な測定方法や聴覚の研究が精力的に行われました。1929年にはフレッチャーとスタインバーグが、無意味音節、多音節、単語や文章を用いた音声品質試験について報告しています。また、フレッチャーは1921年には明瞭度指数（AI）の基本的なアイデアを考案したと言われています。初期の測定方法では信頼性が低かったため、その後、測定方法の標準化と様々な客観評価法の研究が進められました。

まとめ

明瞭度は、音声の聞き取りやすさを測る重要な指標であり、様々な分野で利用されています。客観的な評価方法の開発により、より正確な評価が可能になっています。音響に関わる分野においては、明瞭度を理解し、適切に評価することが、高品質な音環境を実現する上で不可欠です。

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