星座の書
『星座の書』（Kitāb Ṣuwar al-Kawākib）は、10世紀ペルシアの天文学者アブドゥッラハマーン・スーフィーによって著された天文書です。この書は、プトレマイオスの『アルマゲスト』を基盤としつつ、アラビアの伝統的な天文学の知識と、精緻な星座絵を組み合わせたことで、後世の天文学に多大な影響を与えました。
アッ・スーフィーは、当時のイスラーム世界で盛んに研究されていた古代ギリシアの天文学に深く精通していました。ブワイフ朝の君主アドゥド・ウッ・ダウラに仕え、自らも観測を行い、その成果を『アルマゲスト』の星表に反映させました。また、アラビアに古くから伝わる星の名前や伝承も収集し、これらをまとめたのが『星座の書』です。
『星座の書』は大きく分けて4部構成となっています。
1. 導入部：本書の目的や先行研究への批判、星表作成の方法論などが述べられています。
2. 北天の星座：21星座が解説されています。
3. 黄道星座：12星座が解説されています。
4. 南天の星座：15星座が解説されています。
これらの星座は、『アルマゲスト』に収録された48星座と同じであり、登場順も『アルマゲスト』に倣っています。
各星座の章は、以下の3つの部分から構成されています。
星座の詳細な解説（星の位置、数、明るさなど）
星の名前、黄道座標、明るさをまとめた星表
* 星座絵と共に描かれた星図
アッ・スーフィーの星表は、『アルマゲスト』の星表を基礎としていますが、星の位置と明るさの記録には特に注意が払われています。ただし、座標に関しては、独自の観測で修正するのではなく、当時の歳差の値を用いて『アルマゲスト』の黄経に補正を加える方法を採用しています。星の等級については、アッ・スーフィー自身の観測結果が反映されており、『アルマゲスト』よりも細かい等級の区別が試みられています。
また、星の色についても記述があり、特に7つの星について「赤い」と記録されています。これらのうち、アルデバラン、アークトゥルス、ベテルギウス、ポルックス、うみへび座α星、アンタレスについては、星の色を正しく捉えていますが、アルゴルについては誤認とされています。
『星座の書』の最大の特徴の一つは、各星座の星図が星座絵として描かれていることです。それまで文章でしか記述されていなかった星座の姿を視覚的に表現した点で、画期的な書物といえます。
星座絵は、ギリシア時代の姿を基本としていますが、人物の顔の造作や服装はアラビア風にアレンジされています。また、写本が作られた時代によって、絵のタッチや衣装に違いが見られます。
さらに、各星座には左右反転した二つの星図が描かれています。これは、天球儀上の星図と実際の空に見える星座の姿の違いを考慮したもので、観測者の混乱を防ぐ意図がありました。
アッ・スーフィーは、アラビアの伝統的な天文学にも精通しており、本書では、純粋な天文学とアラビアの伝統的な天文学の両方を並立させています。アラビアの伝統的な天文学に基づく星の名前や伝承を紹介し、『アルマゲスト』の記述と対応させる作業も行っています。
また、星座絵の中には、アラビアの伝統的な天文学の影響を受けて変化したものも見られます。例えば、アンドロメダ座には複数の異なる姿が描かれており、こま座やペガスス座には全身の馬を描いた星座絵も見られます。
『星座の書』には、アンドロメダ銀河の存在を示す記述があり、これがアンドロメダ銀河に関する最古の記録とされています。また、アッ・スーフィー星団（コリンダー399）や、ほ座ο星団についても、現存する最古の記録は『星座の書』とみられています。
ただし、大マゼラン雲については、多くの明るい星があるという記述のみで、「雲」という言葉は使われておらず、大マゼラン雲を記録したとは断定できません。
『星座の書』は、後世の天文学者にとって必携の書となり、その星表はイスラーム世界で非常に重要視されました。ウルグ・ベクをはじめとする多くの天文学者がこれを参照し、ビールーニーやイブン・ユーヌスは、この書を基に観測を行いました。
また、ヨーロッパの天文学にも大きな影響を与え、アルフォンソ10世の天文書や、アピアヌスの星図などにもその影響が見られます。
アッ・スーフィー自身が描いた原書は現存していませんが、写本や翻訳本は多く現存しています。最古の写本は、アッ・スーフィーの息子によって1009[[年]]に作られたとされています。13世紀にはペルシア語やスペイン語に翻訳され、ラテン語訳も作成されました。
1874[[年]]には、ハンス・シェレルプによってフランス語の完訳が出版され、現代の天文学史家にとって重要な資料となっています。
『星座の書』は、天文学的な価値だけでなく、美しい挿絵が特徴的な写本としても高く評価されています。
成立の背景
アッ・スーフィーは、当時のイスラーム世界で盛んに研究されていた古代ギリシアの天文学に深く精通していました。ブワイフ朝の君主アドゥド・ウッ・ダウラに仕え、自らも観測を行い、その成果を『アルマゲスト』の星表に反映させました。また、アラビアに古くから伝わる星の名前や伝承も収集し、これらをまとめたのが『星座の書』です。
内容構成
『星座の書』は大きく分けて4部構成となっています。
1. 導入部：本書の目的や先行研究への批判、星表作成の方法論などが述べられています。
2. 北天の星座：21星座が解説されています。
3. 黄道星座：12星座が解説されています。
4. 南天の星座：15星座が解説されています。
これらの星座は、『アルマゲスト』に収録された48星座と同じであり、登場順も『アルマゲスト』に倣っています。
各星座の章は、以下の3つの部分から構成されています。
星座の詳細な解説（星の位置、数、明るさなど）
星の名前、黄道座標、明るさをまとめた星表
* 星座絵と共に描かれた星図
星表のデータ
アッ・スーフィーの星表は、『アルマゲスト』の星表を基礎としていますが、星の位置と明るさの記録には特に注意が払われています。ただし、座標に関しては、独自の観測で修正するのではなく、当時の歳差の値を用いて『アルマゲスト』の黄経に補正を加える方法を採用しています。星の等級については、アッ・スーフィー自身の観測結果が反映されており、『アルマゲスト』よりも細かい等級の区別が試みられています。
また、星の色についても記述があり、特に7つの星について「赤い」と記録されています。これらのうち、アルデバラン、アークトゥルス、ベテルギウス、ポルックス、うみへび座α星、アンタレスについては、星の色を正しく捉えていますが、アルゴルについては誤認とされています。
星座絵の特徴
『星座の書』の最大の特徴の一つは、各星座の星図が星座絵として描かれていることです。それまで文章でしか記述されていなかった星座の姿を視覚的に表現した点で、画期的な書物といえます。
星座絵は、ギリシア時代の姿を基本としていますが、人物の顔の造作や服装はアラビア風にアレンジされています。また、写本が作られた時代によって、絵のタッチや衣装に違いが見られます。
さらに、各星座には左右反転した二つの星図が描かれています。これは、天球儀上の星図と実際の空に見える星座の姿の違いを考慮したもので、観測者の混乱を防ぐ意図がありました。
アラビアの天文学の影響
アッ・スーフィーは、アラビアの伝統的な天文学にも精通しており、本書では、純粋な天文学とアラビアの伝統的な天文学の両方を並立させています。アラビアの伝統的な天文学に基づく星の名前や伝承を紹介し、『アルマゲスト』の記述と対応させる作業も行っています。
また、星座絵の中には、アラビアの伝統的な天文学の影響を受けて変化したものも見られます。例えば、アンドロメダ座には複数の異なる姿が描かれており、こま座やペガスス座には全身の馬を描いた星座絵も見られます。
星雲の記述
『星座の書』には、アンドロメダ銀河の存在を示す記述があり、これがアンドロメダ銀河に関する最古の記録とされています。また、アッ・スーフィー星団（コリンダー399）や、ほ座ο星団についても、現存する最古の記録は『星座の書』とみられています。
ただし、大マゼラン雲については、多くの明るい星があるという記述のみで、「雲」という言葉は使われておらず、大マゼラン雲を記録したとは断定できません。
後世への影響
『星座の書』は、後世の天文学者にとって必携の書となり、その星表はイスラーム世界で非常に重要視されました。ウルグ・ベクをはじめとする多くの天文学者がこれを参照し、ビールーニーやイブン・ユーヌスは、この書を基に観測を行いました。
また、ヨーロッパの天文学にも大きな影響を与え、アルフォンソ10世の天文書や、アピアヌスの星図などにもその影響が見られます。
写本について
アッ・スーフィー自身が描いた原書は現存していませんが、写本や翻訳本は多く現存しています。最古の写本は、アッ・スーフィーの息子によって1009[[年]]に作られたとされています。13世紀にはペルシア語やスペイン語に翻訳され、ラテン語訳も作成されました。
1874[[年]]には、ハンス・シェレルプによってフランス語の完訳が出版され、現代の天文学史家にとって重要な資料となっています。
『星座の書』は、天文学的な価値だけでなく、美しい挿絵が特徴的な写本としても高く評価されています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。