星影のステラ

「星影のステラ」：映画から生まれた不朽のジャズ・スタンダード

「星影のステラ」（原題：Stella by Starlight）は、数あるジャズ・スタンダードの中でも特に親しまれている一曲です。この楽曲は、著名な作曲家ヴィクター・ヤング（Victor Young）によって、1944年に公開されたパラマウント映画の作品『呪いの家』（原題：The Uninvited）のために特別に書き下ろされました。映画のサウンドトラックとして誕生したこの曲は、当初は歌詞を持たない、器楽曲として発表されました。

曲が生まれてから2年後の1946年、作詞家ネッド・ワシントン（Ned Washington）がこの美しいメロディに新たな生命を吹き込む形で歌詞を加えました。ワシントンのペンによる詞には、曲のタイトルでもある「Stella by Starlight」というフレーズが織り込まれています。しかし、この印象的なタイトルが歌われるのは、楽曲の冒頭や終わりといった一般的な位置ではなく、構成全体の約4分の3付近というユニークな配置になっています。

ジャズ界における揺るぎない地位

「星影のステラ」は、その美しい旋律と独特の構成から、すぐにジャズ・ミュージシャンの間で注目を集めるようになりました。現在では、ジャズ・スタンダードの定番中の定番として認識されており、ジャズ専門のウェブサイトjazzstandards.comによるランキングでは、常にトップ10に入る人気を誇っています。これは、時代やスタイルを超えて多くの演奏家や聴衆に愛され続けている証と言えるでしょう。

この楽曲が広く知られるようになったきっかけの一つに、初期の商業的な成功があります。1947年5月には、人気トランペット奏者ハリー・ジェームズ（Harry James）率いる楽団による演奏がポップ・チャートで21位を記録しました。そのわずか2ヶ月後の同年7月には、名歌手フランク・シナトラ（Frank Sinatra）とアクセル・ストーダル（Axel Stordahl）楽団によるバージョンも同じく21位にランクインするなど、当時のポピュラー音楽界でも一定の成功を収めました。

時代を彩った数々の名演

「星影のステラ」は、その発表以来、楽器演奏と歌唱の両方で多くの偉大なジャズ・ミュージシャンたちによって演奏・録音されてきました。多様なアーティストによる解釈が存在することが、この曲がジャズ・スタンダードとして定着した大きな理由です。

特に有名なインストゥルメンタル・バージョンとしては、以下のようなものが挙げられます。

アルト・サックスの巨人、チャーリー・パーカー（Charlie Parker）が1952年1月に残した歴史的な録音。
クールジャズを代表するテナー・サックス奏者、スタン・ゲッツ（Stan Getz）が同年12月に録音した流麗な演奏。
モダンジャズ・ピアノの開祖の一人、バド・パウエル（Bud Powell）によるソロ・ピアノ・バージョン。
ビッグバンド・リーダー、スタン・ケントン（Stan Kenton）楽団がトロンボーン奏者ジョージ・ロバーツ（George Roberts）をフィーチャーした壮大なアレンジ。
ジャズ界の帝王、マイルス・デイヴィス（Miles Davis）がアルバム『1958マイルス』（原題：1958 Miles）に収録した、彼のトランペットによる印象的な演奏。
オルガン奏者のアール・グラント（Earl Grant）やテナー・サックス奏者のデクスター・ゴードン（Dexter Gordon）など、数多くのミュージシャンによる演奏。

歌詞が付けられた後のボーカル・バージョンもまた、多くの名唱が生まれています。ジャズやポピュラー界の第一線で活躍した歌手たちがこの曲を取り上げました。

ビリー・エクスタイン（Billy Eckstine）
ディック・ハイムズ（Dick Haymes）
ソウルの巨匠レイ・チャールズ（Ray Charles）
ヘレン・レディ（Helen Reddy）
トニー・ベネット（Tony Bennett）
ジャズ・ボーカルの女王、エラ・フィッツジェラルド（Ella Fitzgerald）

これらのアーティストによる演奏は、それぞれが異なる個性と解釈を持っており、「星影のステラ」のメロディと歌詞が持つ表現力の幅広さを示しています。

オリジンとなった映画『呪いの家』での使用

この楽曲が最初に聴衆に届けられたのは、作曲の目的となった映画『呪いの家』の劇中においてでした。映画の中でこの曲を実際に演奏したのは、作曲者であるヴィクター・ヤング自身の楽団でした。この曲は、物語の中で非常に印象的な場面で使用されています。具体的には、主演のレイ・ミランド（Ray Milland）演じる主人公ロッドが、ゲイル・ラッセル（Gail Russell）演じるヒロイン、ステラにセレナーデを捧げる重要なシーンで流れました。このロマンチックでありながらどこか物憂げなメロディは、映画の雰囲気や登場人物たちの心情を見事に彩っています。

他の作品での使用例

「星影のステラ」は、『呪いの家』以降も様々な映画やメディアで使用され続けています。その美しい旋律は、多岐にわたるジャンルの作品に深みを与えています。

1963年のコメディ映画『底抜け大学教授』（原題：The Nutty Professor）では、ジェリー・ルイス（Jerry Lewis）がステラ・スティーヴンス（Stella Stevens）にこの曲を歌いかける場面があります。この際に使用されたバージョンは、オリジナルのテンポを速めたアレンジが施されていました。
1995年版の映画『サブリナ』（原題：Sabrina）では、劇中の「The Party Sequence」の一部として使用されました。
同じく1995年公開のマーティン・スコセッシ監督作品『カジノ』（原題：Casino）では、ロバート・デ・ニーロ（Robert De Niro）とシャロン・ストーン（Sharon Stone）主演のシーンで、レイ・チャールズによるボーカル・バージョンが効果的に用いられています。
2007年のスペイン映画『Bajo las estrellas』（星影の下で）では、題名がこの曲を示唆しており、フラメンコの巨匠エンリケ・モレンテ（Enrique Morente）が歌唱するフラメンコ・アレンジのバージョンが使用されました。アルベルト・サン・フアン（Alberto San Juan）とエンマ・スアレス（Emma Suárez）が主演しています。

映画音楽として生まれ、後に歌詞が付けられてジャズ・スタンダードの金字塔となった「星影のステラ」。その繊細で心に残るメロディは、これからも世界中の人々に愛され、演奏され続けていくことでしょう。

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