春日山 (奈良県)

春日山：神奈備山として崇められる聖地

春日山は、奈良県奈良市に位置し、春日大社の東側に広がる標高497mの花山、または西隣の御蓋山の通称です。御蓋山を「春日前山」、花山を「春日奥山」と呼んで区別することもあります。これらの山々は、芳山などを含む連峰の総称としても用いられます。

歴史と信仰

春日山は、古くから神奈備山として崇敬され、平城京遷都後は特に朝廷から尊ばれました。遣唐使は、出立に先立ち春日山の付近で天神地祇を祀り、航海の安全を祈願したと伝えられています。768年には、藤原永手が春日山の麓に春日大社を創建しました。藤原氏の勢力拡大とともに、春日山一帯に対する支配を強め、841年には春日大社の神域として狩猟や伐採を禁じました。

春日大社の神体山とみなされるようになった春日山は、春日大社と興福寺の管理下に置かれました。春日山に自生する榊を根こそぎにして「春日神木」と称し、興福寺や春日大社が強訴を行う際に、この神木を押し立てました。

また、春日山は山岳信仰の修行場や祈雨の霊場としても重要視され、興福寺をはじめとする奈良の僧侶たちから重んじられました。春日山石窟仏など、古代から中世にかけての多くの仏教遺跡が今も残されています。

自然

神山として殺生禁断が守られてきたため、春日山には広大な原生林（春日山原始林）が今日まで残されています。この豊かな自然は、古都奈良の文化財の一部として世界遺産にも登録されています。
春日山のスギは「春日杉」として知られ、明治時代には倒木材を運び出して出荷し、その収益を公園の造成費用に充てていました。

御蓋山（みかさやま）

御蓋山は、標高297mで、三笠山とも表記されます。その山容が笠を伏せた形に似ていることから名付けられました。山頂の浮雲峰は、768年に春日大社の祭神である武甕槌命が白鹿に乗って降り立った場所とされ、本宮神社が祀られています。

万葉集には、この山を詠んだ歌が数多く収録されています。阿倍仲麻呂が中国から日本を想い詠んだ歌は、百人一首にも選ばれ、広く知られています。

江戸時代以降、北隣の若草山が三笠山と呼ばれるようになり、国土地理院の地図でも若草山（三笠山）、春日山（御蓋山）と表記されるなど混同が見られますが、1935年に三笠宮の宮号宣賜の際、三笠山（御蓋山）と若草山との区別が明確化されました。

春日山は、その歴史的・文化的価値とともに、豊かな自然が魅力の場所です。訪れる人々に、深い感動と癒しを与えてくれるでしょう。

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