春日神木

春日神木（かすがのしんぼく）

春日神木とは、奈良の春日大社において創り出された神聖な木のことを指します。この神木は、榊や梛の枝に春日明神の御神体である神鏡を取りつけ、特別な注連をかけて神の存在を示すものとされました。古代から中世にかけてこの神木は、特に興福寺の強訴の際に持ち出され、神の威力を広く知らしめるための重要なシンボルとして機能していました。

概要

春日大社は歴史的に藤原氏の氏社として位置づけられ、明治維新以前は隣接する興福寺と密接に関連付けられていました。このため、興福寺の僧侶たちは春日神木を利用して強訴することがよくありました。この行為は「神木動座」と呼ばれ、時折大規模な示威行動として展開されていました。特に利害が絡む問題が生じた際には、全ての僧侶を集めて開催される満山集会で、朝廷への要求が決定されました。

要求が受け入れられない場合、僧侶たちは春日大社に要請し、神鏡を取り出して神木を装飾し、神木を社殿の脇に移して強訴の予告を行います。この一連の儀式により、春日神木は心の支えとして機能するとともに、強訴を実行する主導者たちの決意を象徴する存在でもありました。

強訴の流れ

春日神木が関与する強訴では、興福寺の僧侶たちが数多くの人々を集め、法螺貝の音とともにその神木を囲みながら、京都に向かって進発しました。途中では平等院に立ち寄り、交渉を試みましたが、もし要求が受け入れられなければ、神木を携えて京都に入洛するという手段に出ました。通常は勧学院に安置されましたが、時には御所の前に神木を掲げて朝廷に直接圧力をかけることもありました。

この間、藤原氏の公卿や官人たちは神木が入洛している状態では謹慎を余儀なくされ、強訴に従わない者には罰則が科されることがありました。また、検非違使や武家もこの状況で入洛を阻止する意向を示していましたが、実際に衆徒に対して武器を向けることは慎まれました。強訴によって要求が無理やり通ることが多く、これを「山階道理」と皮肉を込めて呼ばれていました。

神木帰座とその影響

神木が奈良に戻る際には、藤原氏の人々が行列を作り、春日大社に感謝を捧げる習わしがありました。この一連の儀式は、神木の重要性をさらに強調するものでした。春日神木の入洛強訴の実際の初期には、968年に東大寺との対立があり、神木が持ち出されて京都に向かいました。その後も、院政期から鎌倉時代にかけて盛んに行われ、強訴の形式は多様化しました。

南北朝時代になると、神木の入洛強訴は異なった展開を見せ、室町幕府の将軍が前面に出て交渉を行いました。この結果、興福寺は実質的に敗北し、神木動座は次第に制限されるようになりました。戦国時代には、この習慣自体が消滅してしまいました。

注連を立てる行為

その後、春日神社の神人が、他者による侵奪や年貢未進の際に、特製の神木を田畠の中央に立てることがありました。これはその土地を神聖なものとし、触れることを禁じる象徴でした。このように、春日神木は実際の強訴活動のみならず、地域社会においても神聖な存在としての役割が重要視されていました。

このように春日神木は、強訴の重要なシンボルとして、日本の歴史上で特別な役割を果たしてきました。

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