昭和硫黄島

昭和硫黄島：海底火山が生んだ奇跡の島

昭和硫黄島は、鹿児島県鹿児島郡三島村に位置する無人島です。1934年（昭和9年）の海底火山噴火によって出現した比較的新しい島で、別名「新硫黄島」とも呼ばれています。薩摩硫黄島の東約2kmの海上に位置し、周囲1.3km、面積0.07km²、最高地点標高26mの小さな島ですが、その誕生の背景には、地球の息吹を感じさせる壮大なドラマがあります。

概要

行政区分上は、三島村大字硫黄島の小字「昭和硫黄島」に属し、1952年（昭和27年）に正式に小字の区域が設定されました。島は流紋岩質の溶岩で覆われており、無人島であるため、手つかずの自然が残されています。

昭和硫黄島の誕生

昭和硫黄島の母体となった硫黄島（薩摩硫黄島）は、古くから火山活動が活発な島として知られています。現在も周辺海域では温泉が湧出し、その影響で海水が変色する様子が見られます。硫黄島港の海水が茶褐色に染まっているのも、鉄分を豊富に含んだ温泉水が流れ込んでいるためです。

1934年（昭和9年）9月、硫黄島周辺で地震活動が活発化し、海水の沸騰や火山灰の浮遊、海水の混濁などが確認されました。9月20日には噴煙が立ち上り、火山性の軽石が観察されるなど、海底火山活動が本格的に始まりました。そして12月7日、ついに新島が出現。12月23日には高さ20-30mほどの火口丘が確認されましたが、その後一時的に海中に没して消滅しました。

しかし、1935年（昭和10年）1月5日、再び新島が出現。その後は溶岩流などが生じ、陸地が形成されていきました。噴火活動が落ち着いた3月8日には、硫黄島の住民が新島に初めて上陸。4月1日の調査では、噴火活動はほぼ終息していることが確認されました。

形成の記録

昭和硫黄島の形成過程は、地理学者の田中館秀三によって詳細に調査され、その記録は複数の論文として残されています。以下に、その経過をまとめました。

1934年（昭和9年）
9月6日または12日23時頃：地震活動開始
9月13日：午前中を中心に地震回数が増加
9月17日：海水の沸騰、火山灰の浮遊を確認
9月18日：海水の混濁を確認
9月20日：噴煙、軽石による浮島を確認
9月21日：噴煙の高度が1,000メートルに達する
11月25日：初めて降灰を確認
12月7日：新島を確認
12月23日：新島の火口丘の高さが20-30メートルに成長
12月25-30日頃：海中に水没、消滅
1935年（昭和10年）
1月5日：再度、新島出現
1月19日：黒煙及び白煙を伴う溶岩塊の放出を確認
1月22日：pH5.3の酸性雨水を硫黄島で測定
3月1日：火山灰、ガス等を含む降雨が減少
3月8日：硫黄島住民により新島への初上陸が行われる
4月1日：噴煙等が見られなくなり、ほとんどの火山活動が終息

新島が誕生した場所は、鬼界カルデラ北縁の水深約300メートルの地点です。そこから新島が形成されるまでに噴出したマグマの量は、雲仙平成新山のマグマ噴出量（0.18km³）に匹敵するか、それ以上であると考えられています。

こうして誕生した昭和硫黄島は、海蝕によって消滅することなく、現在もその姿をとどめています。その存在は、地球のダイナミズムを今に伝える貴重な証人と言えるでしょう。

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