時代は変る

ボブ・ディラン『時代は変る』：プロテストソングと内省の狭間で

1964年、ボブ・ディランによってリリースされた3枚目のスタジオアルバム『時代は変る』（The Times They Are a-Changin'）は、彼のキャリアにおいて重要な転換点となる作品です。このアルバムは、ビルボード・トップ LP's チャートで最高20位、全英アルバム・チャートでは4位を記録し、RIAAによってゴールド・ディスクに認定されるなど、商業的にも大きな成功を収めました。

プロテストソングとパーソナルな感情

アルバムの半分以上を占めるプロテストソングは、ディランの代名詞とも言える社会への批判精神を強く打ち出しています。タイトル曲「時代は変る」をはじめ、「神が味方」「ノース・カントリー・ブルース」「ハッティ・キャロルの寂しい死」といった楽曲は、当時の社会情勢を反映し、プロテストソングの代表作として広く知られています。

一方で、当時の恋人であったスーズ・ロトロとの関係の冷却化が、「いつもの朝に」や「スペイン革のブーツ」などの楽曲に影響を与えたという説も存在します。また、「船が入ってくるとき」のような予言的な内容や、「哀しい別れ」のような過去との決別を歌った楽曲は、後のディランの作風を予感させるものとして注目されています。

アルバム構成と特徴

LP盤の裏ジャケットには、ディランによる長編の自由詩「11のあらましな墓碑銘」が掲載されており、ジャケットに収まりきらなかった部分はインナースリーブに封入されました。この詩は、ディランの文学的な側面を強調し、単なるフォークシンガーに留まらない彼の多才さを示しています。

収録曲

アルバムは以下の楽曲で構成されています。

Side 1

1. 時代は変る - The Times They Are a-Changin'
2. ホリス・ブラウンのバラッド - Ballad of Hollis Brown
3. 神が味方 - With God On Our Side
4. いつもの朝に - One Too Many Mornings
5. ノース・カントリー・ブルース - North Country Blues

Side 2

1. しがない歩兵 - Only a Pawn in Their Game
2. スペイン革のブーツ - Boots of Spanish Leather
3. 船が入ってくるとき - When the Ship Comes In
4. ハッティ・キャロルの寂しい死 - The Lonesome Death of Hattie Carroll
5. 哀しい別れ - Restless Farewell

全曲、作詞・作曲はボブ・ディラン自身が手掛けています。

レコーディングとアウトテイク

レコーディングは1963年8月から10月にかけてニューヨークのコロムビア・レコーディング・スタジオで行われました。プロデューサーは前作『フリーホイーリン・[[ボブ・ディラン]]』から引き続きトム・ウィルソンが担当。レコーディング時には多くのアウトテイクが生まれ、それらは後に『バイオグラフ』や『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』などで公開されています。

楽曲の背景

「ノース・カントリー・ブルース」：ディランが女性の視点から物語を語るこの曲は、彼の故郷であるミネソタ州ヒビングを彷彿とさせる風景が描かれています。
「しがない歩兵」：公民権運動の活動家メドガー・エヴァーズをテーマにしたこの曲は、ディランの社会的な関心の高さを示しています。
「船が入ってくるとき」：ベルトルト・ブレヒトとクルト・ヴァイルの『三文オペラ』にインスパイアされたとされるこの曲は、比喩的な表現を用いて希望を歌い上げています。
「神が味方」：この曲は、ドミニック・ビーハンの「パトリオット・ゲーム」をベースにしていると指摘されています。
* 「ホリス・ブラウンのバラッド」：この曲は「プリティ・ポリー」を基にしているとも言われています。

反響と評価

1963年10月26日には、カーネギー・ホールで初のワンマンコンサートを開催。このアルバムの収録曲も演奏されました。アルバムは1964年1月にリリースされ、『ライフ』誌ではディランの特集が組まれ、「ここ20年で最も重要なフォークソングライター」と紹介されました。日本では、1966年に『ボブ・ディラン第4集』として異なるジャケットと曲順でリリースされ、後にオリジナル版が発売されました。2005年には、再発CDがオリコンチャートで最高185位を記録しています。

日本のミュージシャンへの影響

『時代は変る』は、日本のミュージシャンにも大きな影響を与えました。中川五郎が「ノース・カントリー・ブルース」の替え歌として「受験生ブルース」を作り、高石ともやが新たに曲をつけてヒットさせました。吉田拓郎は「ハッティ・キャロルの寂しい死」のメロディに歌詞をつけ、「準ちゃんが与えた今日の吉田拓郎への多大なる影響」という歌を作っています。また、松本隆は太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の歌詞が「スペイン革のブーツ」を下敷きにしたことを認めています。

このように『時代は変る』は、ボブ・ディランの音楽的な幅広さ、社会への深い関心、そして内省的な感情を表現した、彼のキャリアを代表する重要な作品として、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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