時枝誠記

時枝誠記：近代国語学の礎を築いた巨人

時枝誠記(1900-1967)は、20世紀日本の国語学を代表する学者の一人です。横浜正金銀行サンフランシスコ支店長を父に持ち、東京で生まれ育ちました。暁星中学校、第六高等学校を経て、1925年に東京帝国大学文学部国文科を卒業。卒業[[論文]]は「日本に於ける言語意識の発達及び言語研究の目的と其の方法」という、国語学の基礎を問う内容でした。その後、第二東京市立中学校教諭などを経て、京城帝国大学助[[教授]]に就任。イギリス、ドイツ、フランス、アメリカへの留学を経て、1933年には京城帝国大学教授、1943年には東京帝国大学教授となりました。1943年には学位論文「言語過程説の成立とその展開」により文学博士の学位を取得しています。

画期的な言語理論「言語過程説」

時枝は、歴史的・文献学的な研究が主流であった当時の国語学界において、言語理論の研究に正面から取り組んだ先駆者でした。西欧言語学の影響が強い当時の日本語研究に疑問を抱き、明治以前の国語学者の考え方を丁寧に検討。そこから、独自の言語理論「言語過程説」を構築しました。これは、言語を静的な構造物ではなく、時間軸の中での動的な過程と捉える革新的な視点です。この「言語過程説」は「時枝国語学」として知られ、その文法理論は「時枝文法」と呼ばれ、現在も国語学研究に大きな影響を与え続けています。

国語教育への貢献と戦後の国語学界再建

時枝は、学術研究のみならず、国語教育にも積極的に関わりました。言語教育を基盤とした国語教育の振興に力を注ぎ、戦後の混乱期においては、国語学界の再建にも重要な役割を果たしました。国立国語研究所評議員、国語審議会委員、国語学会代表理事などを歴任し、日本の国語政策にも深く関与しました。1961年に東京大学を定年退官後は、早稲田大学教授に就任し、教育・研究活動を続けました。

広範な影響力

時枝の言語観は、国語学のみに留まらず、思想、哲学、文学、演劇など多様な分野に影響を与えました。特に、保守的な思想家として知られる福田恆存の言語体系や、吉本隆明の思想形成に影響を与えたことが指摘されています。また、実存主義と構造主義の対立期には、ソシュールの言語観に対する批判を通して、対抗理論として位置づけられる動きもありました。

朝鮮における活動

時枝は、植民地時代の朝鮮における日本語普及にも関与しました。皇民化政策下においては、朝鮮語の廃棄と日本語の母語化を推進する立場を取り、朝鮮人女性への日本語教育を重視するなど、現在から見ると問題のある活動も行っていました。

膨大な著作物

時枝の著作物は多岐に渡り、単著、共著、編集、監修など多数の書籍を出版しました。『国語学史』『国語学原論』『国語研究法』『日本文法』『国語教育の方法』など、現在も読み継がれている古典的な名著も多く存在します。これらの著作は、日本の国語学研究の基礎を築き、後世の研究者たちに多大な影響を与え続けました。

まとめ

時枝誠記は、独自の言語理論と、国語教育への貢献、そして広範な影響力によって、日本の国語学史に大きな足跡を残した人物です。彼の業績は、現代の国語学研究にとっても、依然として重要な意味を持っています。一方で、植民地時代の活動については、現代的な視点からの批判的な検討が不可欠です。彼の複雑な生涯と業績を理解することは、現代の私たちにとって、言語と社会を考える上で貴重な示唆を与えてくれるでしょう。

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