曹士の能力活用

曹士の能力活用



概要



曹士の能力活用とは、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の曹士が、それぞれの専門性を活かし、部隊の規律及び風紀の維持、上級曹士の活動推進、そして部隊任務の遂行に貢献することを目的とした制度です。この制度は、各組織で異なる名称で呼ばれており、統合幕僚監部では最先任下士官、陸上自衛隊では上級曹長、海上自衛隊では先任伍長、航空自衛隊では准曹士先任という名称が用いられています。

本来、士官と下士官・兵は異なる規律に従うべきであり、下士官・兵の問題は、その事情に精通した古参の下士官が対処するのが望ましいとされています。この考えに基づき、米軍の関連制度を参考に、2003年に海上自衛隊で先任伍長制度が導入されたのを皮切りに、陸海空の各自衛隊で制度検証が開始されました。航空自衛隊では2008年、陸上自衛隊と統合幕僚監部では2014年3月に正式運用が開始されました。

この制度設立の背景には、アメリカ軍をはじめとする諸外国軍との交流において、相手国の最先任曹長に相当するカウンターパートが自衛隊にも必要とされたことがあります。原則として、統合幕僚監部、陸上自衛隊、航空自衛隊では准尉、海上自衛隊では曹長の階級にある者がこの職務に就きます。

各組織における制度



統合幕僚監部



統合幕僚監部では、2012年4月1日付で「最先任下士官」が新設されました。これは、陸上自衛隊の最先任上級曹長、海上自衛隊の先任伍長、航空自衛隊の准曹士先任と同等のポストであり、アメリカ統合参謀本部議長付先任上級曹長に相当します。2年間の試行検証を経て制度化され、陸、海、空将を指揮官とする司令部の最先任上級曹長、またはそれに準ずる先任伍長、准曹士先任が就任します。後職は設けられていません。

陸上自衛隊



陸上自衛隊では「上級曹長制度」として知られ、陸曹が「曹士の育成・管理」に積極的に取り組み、第一線部隊の指揮官をより効果的に補佐する体制の構築を目指しています。この制度は、アメリカ陸軍の大隊以上の部隊司令部に配置される最先任上級曹長や、イギリス軍の連隊上級曹長、中隊上級曹長を参考にしています。

沿革



職務・職責


連隊・大隊以上では、上級曹長は各級部隊において曹士に関する事項を所掌し、指揮官を補佐する専門幕僚的な地位を持ちます。曹士の育成・管理、服務指導、集合教育、下士官交流などを担当し、指揮官への意見具申も行います。また、諸外国軍隊や他自衛隊との下士官交流も実施します。

中隊等では、上級曹長は中隊等における陸曹の最上位職として、曹士の育成・管理に関して中隊長などを補佐し、服務指導准尉として各営内班長や指導陸曹を統括します。以前は、中隊等付准尉や隊付陸曹がこの役割を担っていましたが、上級曹長制度の導入後は、より広範な業務を担うようになりました。

上級曹長は、曹以下の隊員の人事、保全、訓練、補給など、あらゆる面で指揮官を補佐する必要があります。業務を円滑に進めるため、大隊以上に配置される先任上級曹長には、准尉や陸曹1～2名が配置されることがあります。ただし、陸上幕僚長の指揮監督を受ける機関のうち、地方協力本部には配置されていませんが、自衛隊地区病院には配置されています。

上級曹長の分類と識別章


上級曹長は、配置される部隊等によって以下の通り分類されます。


識別章は、2012年4月から腕章型からワッペンタイプに変更され、制服上衣の右胸ポケットに装着します。ワッペンの中央には陸上自衛官の正帽の帽章があしらわれ、その上にある桜星の数が異なります。

  • - 陸上自衛隊最先任：金色地に桜星4つ
  • - 方面隊等最先任：金色地に桜星3つ
  • - 師団等最先任：金色地に桜星2つ
  • - 連隊・群等：金色地に桜星1つ
  • - 部隊等最先任：金色地に桜星なし
  • - 中隊等先任：銀色地に桜星なし

海上自衛隊



海上自衛隊では「先任伍長制度」が導入されており、海曹士の規律維持、部隊の団結強化、上級海曹の活動推進、そして精強な部隊の育成を目的としています。この制度は、アメリカ海軍のマスター・チーフ制度をモデルとし、2003年4月に海上自衛隊で初めて導入されました。陸上自衛隊の上級曹長や航空自衛隊の准曹士先任とは異なり、階級が曹長の隊員がこの職務に就く点が大きな特徴です。

職務・職責


先任伍長は、部隊等の長の命を受け、曹士を総括し、以下の事項を実施します。

  • - 規律及び風紀の維持をはじめとする海曹士の服務指導
  • - 部隊等の団結強化への貢献
  • - 海曹士の士気高揚に係る活動の推進
  • - 上記に関する各部隊間における情報交換の推進

先任伍長は、曹士を取り締まるだけでなく、指揮官への意見具申を通じて部隊の融和や団結にも貢献します。先任伍長の指定は、部隊等の長が、責任感、協調性、規律、実行力、知識・技能、統率・指導力、表現力に優れた海曹長（自衛艦では警衛海曹に限る）の中から行います。海曹長が配置されていない場合は、1等海曹から適任者が選ばれます。

警衛海曹は、アメリカ海軍の文化を継承したもので、海兵隊員が乗艦しない小艦艇で艦内の規律を取り締まる役割を担います。

先任伍長の分類


先任伍長は、配置される部隊等によって以下の通り区分され、それぞれ識別章の桜星の数が異なります。


海上自衛隊先任伍長会報


海上幕僚長は、先任伍長の活動状況の確認、改善事項の摘出、その他先任伍長制度の実施に必要な情報交換や検討のために、原則として年1回会合を開催します。その結果は海上幕僚副長を通じて海上幕僚長に報告されます。この会合は、部隊等先任伍長を除く先任伍長で構成されます。

航空自衛隊



航空自衛隊では、「准曹士先任制度」が導入されており、空曹士の服務指導体制の強化、組織の活性化、他自衛隊や米軍との交流活発化を目的としています。2006年4月から2年間の検証を経て、2008年4月1日に正式施行されました。この制度は、アメリカ空軍のファースト・サージャントを参考にしています。

職務・職責


准曹士先任は、曹士の最高位の階級として、主に以下の事項について指揮官などを直接補佐します。

  • - 指揮官などの指導監督の下、曹士の服務指導を実施
  • - 曹士に係る事項について指揮官等への報告、意見具申
  • - 諸外国軍隊、他自衛隊との下士官交流

准曹士先任の分類


准曹士先任は、配置される部隊等によって以下の通り区分され、識別章の桜星の数が異なります。


航空幕僚監部の准曹士先任は准空尉、各部隊に配置されている准曹士先任は准空尉から1等空曹（上級空曹課程修了者に限る）が充てられています。

メリットとデメリット



上級下士官に自覚と責任を付与することで、部隊の活性化や下士官間の融和団結を強化できるというメリットがある一方、制度に対する反対意見も存在します。

デメリットとしては、高齢化に伴い余剰となった准尉や曹長階級の雇用促進程度の意味合いしか持たない場合がある、制度が実際に機能するのか疑わしい、定年退職間際の人物が部隊を活性化させることは期待できない、といった点が指摘されています。また、上級曹長離任後の処遇についても問題があり、一般部隊での待遇が明確でないため、制度の形骸化を招いている側面もあります。

さらに、付准尉時代は勤務経験年数で選抜されていたため、比較的若年の准尉が選ばれることが多かったのに対し、最先任上級曹長制度では、階級による選抜が基本となるため、部隊経験が少ない上曹が就任する場合もあり、指揮官への適切な指導や助言がなされなくなる懸念もあります。

一方、メリットとしては、在日米軍をはじめとする諸外国軍に対するカウンターパートの明確化、防衛大学校や一般大学出身の若い幹部をベテランの下士官が階級制度とは別に意見具申できる制度上の確保などが挙げられます。

出典・参考資料



  • - SO YOU：曹友会会報誌
  • - MAMOR
  • - 脚注

外部リンク



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