曾翬

曾翬（そうき）は、明代に活躍した官僚であり、字を時升、号を省軒・龍坡居士と称しました。1410年に吉安府泰和県で生まれ、1491年に82歳でその生涯を閉じました。彼の人生は、官僚としての卓越した能力と、民衆を思う誠実な心によって彩られています。

1433年、曾翬は進士に及第し、官吏としてのキャリアをスタートさせました。工部観政として職務に励んだ後、秦府永興王の葬儀を取り仕切る際、贈答品を一切受け取らず、その清廉潔白さを示しました。その後、刑部山西司主事に任じられ、父の死去に伴い一時辞職しましたが、喪が明けると刑部浙江司主事に転じ、さらに刑部陝西司員外郎へと昇進しました。

刑部尚書の金濂は、曾翬の才能を高く評価し、上奏文の作成を任せました。重大な事件が起こると、その解決は曾翬に委ねられるようになり、彼の卓越した判断力は広く知られるようになりました。右都御史の陳鎰が秦王朱志𡐤に告発された際、曾翬は入念な調査を行い、秦王府が陳鎰を誣告したことを暴き出し、彼の無罪を証明しました。

1448年、曾翬は刑部湖広司郎中に進み、何文淵の推薦により広西右参政に抜擢されました。1452年には広西巡撫の李棠の命を受け、思明府の黄𤣾父子の不正を調査しました。黄𤣾は賄賂で買収しようとしましたが、曾翬と副使の劉仁宅はこれを逆手に取り、黄𤣾を捕らえて投獄しました。しかし、黄𤣾が都督同知に抜擢され、釈放されるという事態になり、曾翬は無力感を味わいました。

継母の死去により再び辞職した曾翬は、喪が明けると河南御史として復帰しました。軍の粛清により冤罪を受けた人々を救済し、また、南陽で発生した流民問題にも巡撫と共に尽力し、民心を安定させました。1461年には山東右布政使に抜擢され、開墾地の税を免除するよう主張し、民衆の負担を軽減しました。

1465年、河南布政使に転じた曾翬は、飢饉が発生した際に、開封の備蓄穀物を放出することで食糧価格を安定させ、貧民を救済しました。1468年には北京に召還され、刑部左侍郎に任じられました。1469年には成化帝の命により浙江を巡視し、職務不適格な官吏を多数罷免し、悪政を正しました。1473年、老病を理由に致仕を願い出て許可され、1491年に82歳でその生涯を閉じました。

曾翬は、その卓越した能力と正義感、そして民を思う心によって、明代の歴史に名を残しました。彼の著書である『龍坡集』は、彼の思想や功績を今に伝える貴重な資料となっています。

参考資料:
『明史』巻159 列伝第47
資政大夫刑部左侍郎曾公神道碑（何喬新『椒邱文集』巻29所収）

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