曾魯

曾魯（そう ろ、1319年 - 1373年）は、元末から明初にかけての激動期に生きた官僚、文学者、歴史家です。字は得之、号は守約と称しました。臨江軍新淦県（現在の江西省新干県）の出身で、幼い頃からその才能を発揮しました。

幼少期からの才能と学識

曾魯は7歳にして五経を暗唱するほどの早熟さを示し、成長するにつれて古今の知識に広く通じるようになりました。特に中国史における国体のあり方、人材登用、制度の変遷について深い造詣を持ち、その知識は当時の人々を驚かせました。また、文学者としてもその名を知られ、文才にも恵まれていたと伝えられています。

郷里での貢献と「君子郷」

元の至正年間、世情が不安定になる中、曾魯は郷里の豪族たちを率いて、若い者たちを集め、自警団のような組織を作って地域を守りました。彼は、たびたび人々に酒や肉を振る舞い、道理を説いて人々の心を掴みました。その結果、人々は彼の教えを守り、不正を行う者がいなくなったため、当時の人は彼の郷里を「君子郷」と呼んで尊敬しました。

明朝での活躍と『元史』編纂

1369年（洪武2年）、明朝を建国した洪武帝は、『元史』の編纂を命じ、曾魯はその才能を見込まれて編纂官に任命されました。彼が中心となって編纂された『元史』が完成すると、曾魯は功績を認められ、褒美として金帛を賜り、編纂官の中でも筆頭の地位を与えられました。その後、曾魯は故郷に帰りたいと願いましたが、礼書の編纂という重要な任務のために慰留されました。

外交での活躍と正義感

礼の議論が起こると、曾魯は諸説の是非を論じ、反論する者には必ず典拠を示して論破しました。その博識ぶりは周囲を圧倒し、礼部主事に任じられました。開平王常遇春の死後、高麗からの弔使が送られてきた際、その外装が金龍で飾られ、黄色い袱紗に包まれていること、そして文章に洪武年号が使われていないことに気づき、曾魯は「朝貢する国が正朔を奉じないとは何事か」と厳しく糾弾しました。使者は恐縮して謝罪し、すぐに修正しました。また、ベトナムの陳朝で陳暊が即位した際、その上表文の複製を見て、前王の陳日熞がなぜ名を改めたのかを追及し、使者は理由を説明しましたが、洪武帝は「島夷のずる賢いことはこのようなものか」として朝貢を退けました。これらの出来事を通じて、曾魯の正義感と外交官としての才能は広く知られるようになりました。

昇進と文才の評価

1372年（洪武5年）、洪武帝は曾魯の官位が低いことを知り、その日のうちに6階級も昇進させ、中順大夫・礼部侍郎に任命しました。しかし、曾魯は「順」の字が父の諱を犯すことから辞退を申し出ましたが、吏部が典制を引いて認めませんでした。その後、倭寇を捕獲した際に儒臣が詔勅を起草しましたが、洪武帝は曾魯の草稿を絶賛し、その文才を高く評価しました。また、南京での郷試の主催を命じられ、甘露が鍾山に降った際に群臣が詩賦を献上した中、洪武帝は曾魯の作品だけを褒めました。

最期と後世の評価

1373年（洪武6年）1月、曾魯は病のために舟で帰郷する途中、南昌の石岐潭で亡くなりました。享年54歳でした。淳安の徐尊生は、曾魯のことを「南京に博学の士が二人おり、筆をもって舌とする者は宋景濂、舌をもって筆とする者は曾得之である」と評し、その才能を高く評価しました。著書には『守約斎集』、『六一居士集正訛』、『南豊類稿弁誤』があります。曾魯は、その博識と公正な判断力によって、元末から明初にかけての激動期を生き抜き、後世に名を残した人物です。

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