月の沙漠

月の沙漠

『月の沙漠』は、日本の著名な画家で詩人の加藤まさをによって創作された作品であり、作曲家の佐々木すぐるによって曲が付けられることで童謡として広く知られるようになりました。この作品は「朧にけぶる月の夜」といった美しい情景表現が特徴で、駱駝に乗った王子様とお姫様が旅をする様子が描かれています。

概要

本作は、1923年に発行された大日本雄弁会講談社の雑誌『少女倶楽部』に発表されました。当時まだ若手だった佐々木すぐるがこの詩に曲を付けたことにより、子どもたちの心を掴む童謡が誕生しました。佐々木は童謡の普及活動に力を入れており、自ら主催する音楽指導の講習会でもこの曲が紹介されていました。後に教育用の楽譜集『青い鳥楽譜』にも収録され、多くの子供たちが耳にする機会を得ました。

このように、初めは音楽教育の一環として用いられていましたが、1927年のラジオ放送をきっかけに認知度が上がり、1932年には柳井はるみの録音でレコード化されました。それ以来、世代を問わず愛され続けてきた名曲となり、2006年には文化庁と日本PTA全国協議会によって「日本の歌百選」にも選ばれました。

制作の背景

加藤まさをは、1965年に行われたインタビューで『月の沙漠』の制作動機を語りました。彼は、少女倶楽部から「何でもいいから頼む」と依頼された結果、この詩を書いたとしています。加藤は沙漠に対するあこがれを持ちながら、具体的な体験はなかったものの、題材としてアラビアの情景を思い描いていたようです。

加藤の描く挿画には、初めは中央アジアのフタコブラクダが描かれていましたが、後にヒトコブラクダに修正されるなど、視覚的な表現も重要視されています。ここで使われる「沙」の字についても、特に「砂漠」との違いが生じることがありますが、加藤は意図的に「沙」を使用しました。

モチーフとされる場所

『月の沙漠』の背景にある海岸については、複数の説があります。一つは、加藤が療養に訪れていた御宿海岸（千葉県）であり、もう一つは、彼の出生地近くにある吉永海岸（静岡県焼津市）です。加藤の息子である嶺夫は、父親の記憶がヒントになった可能性が高いと語っていますが、加藤自らは後に御宿海岸がモチーフであると明言するようになりました。

月の沙漠記念館

御宿海岸には、2頭のラクダに乗った王子と姫の像や、詩碑が建てられた月の沙漠記念館が存在します。記念館には加藤の作品や彼が愛用した楽器の展示が行われており、地域の象徴として重要な役割を果たしています。また、記念像の制作には彫刻家の竹田京一が関わり、アラビアの風景を取材した本多勝一が監修しました。現在も多くの観光客が訪れる名所となっています。

現実の砂漠との相違

本田勝一は、『月の沙漠』の内容が現実の砂漠の旅の描写とは異なる空想的な部分を指摘しました。王子と姫が旅するシチュエーションが非現実的であることを明らかにしましたが、彼はこの作品が日本人の夢を美しく表現していることから、今もなお多くの人々に愛される理由であると述べています。

様々なエピソードも含め、『月の沙漠』は日本の童謡の中でも特異な存在で、時代を超えて人々の心に刻まれています。

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