月形潔

月形潔：北海道開拓に尽力した不屈の官僚

月形潔（つきがた きよし）は、弘化4年（1847年）に筑前国（現福岡県）で生まれ、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した人物です。福岡藩士から官僚へと転身し、北海道開拓に大きな足跡を残しました。特に、樺戸集治監の典獄として、囚人を使った開拓事業を推進したことで知られています。

生い立ちと藩士時代

月形潔は、儒学者で福岡藩士であった月形健（春耕）と、宮崎省庵の娘である竹との間に生まれました。幼名は直吉といいました。幼少期から、伯父である月形深蔵（漪嵐）から朱子学や剣術を学び、文武両道に励みました。また、別の伯父である長野誠からは、経学、史学、軍学などを学びました。

幕末の動乱期には、福岡藩でも勤王派の動きが活発化しました。月形潔も勤王派の活動に関わり、従兄の月形洗蔵らと共に藩政改革を訴えましたが、保守派との対立から、一時は弾圧を受けることとなります。辛酉の獄では、月形一門が処分を受け、潔自身も逮捕されましたが、後に釈放されました。

その後も、勤王派内部での分裂や、藩内での権力闘争が続きますが、月形潔は同志たちと共に、藩政改革に向けて奔走しました。しかし、その過程で従兄の洗蔵が斬首されるという悲劇に見舞われます。

維新後の活躍

明治維新後、月形潔は新政府に雇われ、福岡藩権少参事として勤務します。この時期に太政官札贋造事件の調査に携わり、その手腕が評価されました。その後、警察の巡査隊長として西南戦争の鎮圧に当たり、司法省や内務省で要職を歴任しました。

西南戦争後、政府は内乱の逮捕者を収容する施設の建設を急務としていました。同時に、ロシアの南下に備え、北海道の開拓を推進していました。そこで、内務卿の伊藤博文は、囚人を労働力として活用することを考え、北海道に監獄を建設する方針を固めました。月形潔は、その監獄候補地の調査に抜擢され、北海道の開拓に携わることとなります。

樺戸集治監典獄として

月形潔は、開拓使による集治監候補地の調査を行い、石狩川上流の「シベツブト」と呼ばれる地を適地と判断しました。ここは、水上交通の利便性が高く、札幌にも近い場所でした。1881年（明治14年）に樺戸集治監が建設され、月形潔が初代典獄に就任しました。

樺戸集治監には2000人もの囚人が収容されました。月形潔は、囚人たちを率いて、道路建設や開墾事業を積極的に進めました。彼らが建設した道路は、後の国道12号線などの原型となっています。また、寺院や水道施設の建設も行われ、囚人たちの生活環境も整備されました。

当時の樺戸集治監には、「五寸釘の寅吉」こと西川寅吉や、贋札作りの名人熊坂長庵などが収容されていました。熊坂は、囚人でありながら、村人に絵を教えていたと言われています。また、月形潔は新撰組の生き残りである永倉新八を剣術師範として招き、看守らに剣術を指導させました。

月形潔の功績を称え、村人はこの地を「月形村」と名付けることを提案し、内務省もこれを承認しました。現在の月形町は、彼の名前に由来しています。

晩年とその後

1885年（明治18年）、月形潔は肺を患い、郷里の福岡で静養しました。その後、樺戸集治監の運営において、独断専行が問題視され、免本官、正七位返上を命じられます。1894年（明治27年）に死去しました。

月形潔が去った後も、囚人たちによる開拓は続けられ、日本初の上水道が建設されました。この水道は「月形水道」あるいは「監獄水道」と呼ばれています。樺戸集治監は、1919年（大正8年）に廃止されましたが、その後は月形村役場として活用されました。

月形町の地には、その後、刑務所はなくなりましたが、1983年（昭和58年）に月形刑務所が設置されています。また、旧樺戸集治監の建物は「北海道行刑資料館」として生まれ変わり、現在は「月形樺戸博物館」として、その歴史を伝えています。月形町には、月形潔の銅像も建立されています。

月形潔の遺産

月形潔は、北海道開拓に尽力した人物として、その名を歴史に刻みました。彼の不屈の精神と、北海道の発展にかけた情熱は、現在も多くの人々に語り継がれています。樺戸集治監の初代典獄として、囚人たちの労働力を活用し、インフラ整備や開拓を推進した功績は、高く評価されています。

関連作品として、吉村昭の小説『赤い人』や、葉室麟の小説『月神』などがあります。また、映画『北の螢』では、月形をモデルにした人物が登場しています。

月形潔は、その生涯を通して、困難に立ち向かい、北海道の開拓に貢献しました。彼の遺した功績は、現在の月形町だけでなく、北海道全体にとっても大きな財産となっています。

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