有吉明

有吉明：昭和初期の対中外交を担った外交官

有吉明(1876年4月15日-1937年6月25日)は、明治、大正、昭和初期の日本を代表する外交官の一人です。京都府宮津市出身。父は宮津藩士で、有吉自身も東京高等商業学校（現一橋大学）卒業後、1898年に外務省に入省しました。

彼の外交キャリアは華々しく、上海総領事、スイス公使、ブラジル大使を歴任し、最終的には、初代駐中華民国大使に就任しました。これは、日本公使館が大使館に昇格したことに伴うもので、日本の対中国外交において極めて重要な役割を担ったことを示しています。

有吉は、在任中に汪兆銘や蔣介石といった中国の要人と会談を重ね、日中関係の緊密化に尽力しました。しかし、当時の日本国内では、軍部主導による中国侵略の機運が高まっていました。有吉は、こうした軍部の強硬姿勢に毅然と反対し、穏健な外交路線を主張しました。彼は、武力衝突による解決ではなく、外交交渉を通じて平和的な解決を模索すべきだと訴えたのです。

しかし、有吉の穏健な主張は、軍部や政府の強硬な姿勢とは相容れませんでした。結果として、彼は事実上の解任という形で中国を離れることになります。これは、彼にとって大きな挫折であったことは間違いありませんが、同時に、彼の信念の強さと、時代の流れに抗う勇気を示すものでもありました。

有吉の経歴を詳細に見ていきましょう。彼は外務省入省後、漢口、仁川、ロンドンなど各地に赴任し、外交官としての経験を着実に積みました。釜山領事、釜山理事庁副理事官、理事官などを経て、1909年には上海総領事に就任。10年以上にわたって上海総領事を務め、日中関係の最前線で活躍しました。

上海総領事の後は、スイス公使、ブラジル大使を歴任。ブラジル大使時代には、日本人のアマゾナス州進出を支援するなど、積極的に日本の海外進出を促進しました。そして1932年には中華民国公使に任命され、1935年には大使館の昇格に伴い、初代駐中華民国大使となりました。

有吉の外交活動は、単に国益の追求にとどまりませんでした。彼は、日中間の友好関係の構築に強い関心を持ち、両国の文化交流にも尽力しました。また、国際平和主義者としても知られ、国際連盟総会日本代表として、国際平和維持に貢献しました。

1936年に依願退職した有吉は、その後まもなく病没しました。彼の死は、多くの日本人に衝撃を与え、その功績は現在も高く評価されています。有吉明の生涯は、激動の時代を生きた外交官の苦悩と葛藤、そして信念を貫く姿を示す、貴重な歴史的証言です。彼の外交姿勢は、現代においても、国際関係を考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

主な経歴

1876年：京都府宮津町出身
1898年：外務省入省
1909年：上海総領事
1920年：スイス公使
1926年：ブラジル大使
1932年：中華民国公使
1935年：初代駐中華民国大使
1936年：依願退職

栄典

明治三十七八年従軍記章
勲一等瑞宝章

関連事項

* 1933年の六三亭事件（有吉明暗殺未遂事件）

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