服部玄三

服部 玄三（はっとり げんぞう）

服部玄三は、明治から昭和にかけて日本の産業界、特に精密機器分野で重要な役割を果たした実業家です。1888年（明治21年）4月9日、現在セイコーグループとして世界に知られる服部時計店の創業者、服部金太郎の息子としてこの世に生を受けました。父金太郎が築いた事業の礎の上に立ち、その発展に尽力した人物として、日本の時計産業史にその名を刻んでいます。

生い立ちと教育

幼少期から父金太郎の事業に触れながら育ったと考えられます。高等教育は、当時エリート養成機関として知られた旧制の学校で受けました。1905年（明治38年）に東京府立第一中学校（現在の東京都立日比谷高等学校）を卒業し、さらに1909年（明治42年）には東京高等商業学校（現在の一橋大学）を卒業しました。これらの学校で培われた知識と視野は、後に服部時計店の経営を担う上で貴重な財産となったことでしょう。商業学校での学びは、事業承継者として必要な経営や経済に関する素養を彼に与えたと考えられます。

事業の継承と発展

東京高等商業学校を卒業後、父が経営する服部時計店に入社し、事業のノウハウを学びました。そして、1934年（昭和9年）には、父金太郎の後を継ぎ、服部時計店の第2代社長に就任します。彼が社長に就任した時期は、国内外で社会情勢が大きく変動していく時代でした。そのような厳しい状況下でも、玄三は父が培った信頼と技術を守りながら、会社の経営を安定させ、さらなる発展を目指しました。リーダーシップを発揮し、困難な時代を乗り越えるための戦略を練ったのです。

第二精工舎の設立とその意義

服部玄三の業績の中でも特筆すべきは、1937年（昭和12年）に第二精工舎（現在のセイコーインスツル株式会社）を設立したことです。これは、時計の継続的な生産体制を確保するために、服部時計店とは別の資本によって設立された会社でした。当時の社会情勢を見越した経営判断であり、部品製造と完成品製造の連携を強化し、より効率的で安定した生産供給体制を構築することを目指したと考えられます。この第二精工舎の設立は、日本の時計産業における生産技術の向上と専門化を推進する上で、極めて重要な意味を持つ出来事でした。これにより、服部時計店グループは、後の高度成長期における高品質な時計製造を支える強固な基盤を確立したと言えるでしょう。

戦後の影響と晩年

第二次世界大戦終結後の1946年（昭和21年）、日本の戦時中の指導者や経済界の要人に対して連合国軍総司令部（GHQ）によって実施された公職追放の対象となり、一時的に公職から退かざるを得なくなりました。これは、当時の社会情勢が彼個人のキャリアに影響を与えた出来事ですが、その後も日本の産業復興を見守り、セイコーグループの発展を陰ながら支えたと考えられます。

晩年は静かに過ごし、1959年（昭和34年）2月6日に70歳でその生涯を閉じました。

家族

服部玄三の妻である英子は、宮内省大膳頭など様々な要職を歴任した上野季三郎の娘でした。彼らの間には複数の子供が生まれ、長男の服部謙太郎は服部時計店の第4代社長を、次男の服部禮次郎はセイコー株式会社（後のセイコーホールディングス株式会社）の第5代社長を務めるなど、父金太郎、玄三に続いてセイコーグループの経営を担いました。また、孫には著名なヴァイオリニストである服部譲二氏などがいます。服部家は、日本の経済界だけでなく、文化・芸術の分野にも人材を輩出しています。

墓所

彼の墓所は、東京都府中市にある多磨霊園にあります。日本の近代経済史に名を残す多くの著名人が眠るこの霊園で、服部玄三も安らかに眠っています。

服部玄三は、父が築いた偉大な事業を受け継ぎ、激動の時代においてその発展に貢献した実業家です。特に第二精工舎の設立は、日本の精密工業界、とりわけ時計産業の歴史において、彼の先見性と経営手腕を示す重要な功績として記憶されています。

もう一度検索