朝の歌 (エルガー)

エドワード・エルガー（Edward Elgar, 1857-1934）が作曲した、ヴァイオリンとピアノのための楽曲『朝の歌』（仏: Chanson de Matin）作品15-2は、彼の初期の作品群の中でも特に親しみやすい小品として知られています。この曲は、同じ作品番号を与えられた『夜の歌』（作品15-1）と対を成す存在として、共に広く演奏され、多くの音楽愛好家に愛されています。

本作がおおよそいつ作曲されたかについては、1889年から1890年にかけての頃と推測されていますが、楽譜が初めて出版されたのは少し後の1899年のことでした。原曲はヴァイオリンとピアノという親密な編成のために書かれましたが、エルガー自身の手によって管弦楽版が編曲され、こちらも原曲同様に広く演奏される機会を得ています。

『朝の歌』の特徴は、その清々しく明るい旋律にあります。対照的な性格を持つ『夜の歌』が内省的で落ち着いた雰囲気を持っているのに対し、本作はそのタイトルが示す通り、朝の光や目覚めを感じさせるような、軽やかで愛らしいメロディーに満ちています。批評家の中には、他のエルガーの大作に見られるような「深遠さ」には欠けるという見方もありますが、その親しみやすさと心地よい響きによって、発表当初から高い人気を獲得しました。特に、電気録音技術が発達する以前の20世紀初頭には、家庭やサロンで手軽に演奏できる小品として、この作品15はエルガーの数ある楽曲の中でも最も広く知られ、人々に親しまれた作品の一つであったと言われています。

楽曲の構成を見てみましょう。音楽はト長調、2/4拍子で書かれており、速度指定はアレグレット（やや速く）となっています。短いながらも、導入的な4小節に続いて主部が始まります。主部では、ピアノが軽快でリズミカルなシンコペーションを伴奏として奏で、その上でヴァイオリンがこの曲の顔とも言うべき、覚えやすく美しい主要旋律を歌い上げます。この主要旋律は繰り返され、様々な表情を見せながら展開していきます。全体の演奏時間は約3分と、短いながらも耳に残る印象的な音楽となっています。

『朝の歌』は、ヴァイオリンとピアノの原曲版や管弦楽版が最も一般的ですが、他にも様々な楽器のために編曲されています。作曲者であるエルガー自身が、チェロとピアノ、そしてヴィオラとピアノのための編曲を手掛けており、これらの楽器でも演奏されることがあります。さらに、エルガーの親友であり、ウスター大聖堂のオルガニストであったハーバート・ブリュワー（Herbert Brewer, 1865-1928）によってオルガン版も作られており、幅広い演奏機会が存在します。

作曲者自身による管弦楽への編曲版は、原曲の初版が出版された2年後の1901年に出版されました。この管弦楽版は、『夜の歌』の管弦楽版と共に、1901年9月14日にロンドンのクイーンズ・ホールで開催された有名なプロムナード・コンサートにて初演されました。この歴史的な初演を指揮したのは、イギリス音楽界において重要な役割を果たした指揮者、ヘンリー・ウッド（Henry Wood, 1869-1944）でした。管弦楽版の楽器編成は、フルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、ハープ1、そして弦五部（ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）という、比較的小編成ながらも色彩豊かな響きを持っています。対となる『夜の歌』も全く同じ編成で書かれているため、これら2曲が続けて演奏されることが多く、朝と夜の情景を描いた音楽の対比を楽しむことができます。

晩年のエルガーは、この『朝の歌』で提示された印象的な旋律を、1918年に作曲した自身の弦楽四重奏曲ホ短調 作品83の第2楽章（アレグレット）の中に引用しています。これは、作曲家が自身の初期の作品の旋律を、後年のより深遠な室内楽作品に昇華させた興味深い例と言えるでしょう。

『朝の歌』は、エルガーの代表作とされる交響曲や協奏曲のような大規模な作品ではありません。しかし、そのシンプルで美しいメロディー、そして朝の陽射しのような温かく清々しい響きは、聴く者の心を和ませ、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。様々な楽器編成で演奏されるこの小品は、今も世界中で演奏され続けている、エルガーの音楽の魅力が詰まった一曲です。

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