朝日山城 (加賀国)

朝日山城

朝日山城は、現在の石川県金沢市北千石町に位置した、安土桃山時代の山城です。別名では一本木城とも呼ばれました。

この城が築かれたのは、戦国の世が終盤に差し掛かる1584年頃のことでした。天下統一を目指す織田信長が本能寺の変で斃れた後、羽柴（豊臣）秀吉が急速に台頭し、その過程でライバルを次々と破っていきました。特に、1583年の賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を滅ぼした後、翌1584年には織田信雄・徳川家康の連合軍と小牧・長久手の戦いを繰り広げました。

この時期、信長のもとで越中に進出していた佐々成政は、賤ヶ岳の戦いでは一旦秀吉に降伏することで領地を維持していましたが、小牧・長久手の戦いが始まると、秀吉と対立する徳川家康に接近し、反秀吉の姿勢を鮮明にしました。これにより、越中の佐々成政と、秀吉方についた加賀の前田利家との間で、軍事的な緊張が高まることとなります。

加賀と越中の国境地帯には、「田近越」「小原越」「二俣越」といった北陸道の脇街道が通っており、この地域は両勢力にとって戦略的に極めて重要でした。この緊張状態に対応するため、街道沿いの要衝に多くの山城が新たに築かれることになったのです。朝日山城も、この時築かれた城塞群の一つとして位置づけられます。

朝日山城は、加賀の前田軍に属する村井長頼によって、国境を越える主要な古道の一つである田近越に築かれました。同じく田近越沿いにあった、佐々軍の一乗寺城（現在の富山県小矢部市に城跡があり、市の史跡に指定されています）と向かい合う形で築かれたと考えられています。この他にも、田近越より南方の小原越には切山城や松根城が、二俣越には高峠城や荒山城といった城が築かれ、一連の防御ラインを形成していました。特に、切山城と松根城、そして小原越の古道は、国の史跡「加越国境城跡群及び道」の一部を構成しています。

朝日山城の城跡は、松根城跡の北西約1.2キロメートル、標高180メートルの丘陵上に残されています。郷土史料である『加能郷土辞彙』には、1573年（天正元年）に上杉謙信が一向一揆を朝日山で攻めたという伝承が記されており、より古い時代からこの地が城塞として利用される可能性も指摘されていますが、城として明確に史料上に登場するのは、主に前田・佐々間の対立が激化した1584年以降とされています。

城の構造は、東西方向に伸びる稜線を利用して構築されており、堀切によって三つの曲輪（郭）に区画されています。西側にある「タケノクボ」と呼ばれる曲輪が主郭（本丸）と考えられており、その規模は東西約40メートル、南北約25メートルです。その東側には、二の曲輪（東西約20メートル×南北約15メートル）、さらに東に三の曲輪（東西約40メートル×南北約30メートル）が続いています。また、主郭と二の曲輪の北側の斜面には、帯状の腰曲輪（幅約10メートル×長さ約60メートル）が設けられています。

この城の築城に関しては、前田軍の村井長頼が築城中に佐々軍の襲撃を受けて一時占拠されたものの奪還したという説や、当初佐々軍が築いていたものを前田軍が奪取したという説など、いくつかの異なる見方があるようです。

これらの加越国境地帯に築かれた山城群は、ごく短期間でその役割を終えることになりました。1585年（天正13年）に羽柴秀吉が大軍を率いて越中へ侵攻し、佐々成政が秀吉に降伏した「富山の役」によって、佐々氏の越中支配は終わりを告げ、前田利長（利家の嫡男）が越中西部を領有することになったためです。これにより、加賀と越中の間の軍事的緊張は解消され、国境の防御拠点としての山城群は必要なくなり、そのまま廃城になったと考えられています。

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