医王山感神院木山寺:歴史と信仰が息づく古刹
岡山県真庭市木山に佇む医王山感神院木山寺は、
高野山真言宗別格本山として、長い歴史と深い信仰に彩られた寺院です。本尊は薬師瑠璃光如来。
平安時代前期、
弘仁6年(
815年)の開基は弘法大師と伝えられています。
伝承によれば、弘法大師が当地を訪れた際、老いた木こりに導かれ、この地が寺院建立にふさわしいと告げられたと言われています。その老人は薬師瑠璃光如来の化身であったという逸話も残されています。大師は、この霊験あらたかな地に寺院を建立し、人々の信仰を集める中心地として発展していきました。
仁寿年間(851年~854年)には
文徳天皇の祈願所として勅願寺に指定されるなど、朝廷からも厚い庇護を受けました。
木山寺は、ただ単なる寺院としてだけでなく、鎮守神として木山牛頭天王と善覚稲荷大明神を祀るという、独特の信仰形態も有しています。木山牛頭天王は薬師瑠璃光如来、善覚稲荷大明神は
十一面観音をそれぞれ垂迹神として祀っており、
神仏習合の信仰が色濃く反映されています。現在でも、本堂と鎮守殿がそれぞれ独立した建物として存在し、
鳥居を備えているなど、神社建築様式の特徴も見られます。こうした
神仏習合の形態は、現代の寺院では稀に見る貴重な姿と言えるでしょう。
室町時代中期、
応永18年(
1411年)には
赤松義則が寺領を寄進。その後も、
尼子氏、
毛利氏、
宇喜多氏といった
戦国大名や、
江戸時代には森氏、三浦氏ら周辺の藩主から崇敬を集め、地域社会における重要な存在として発展を続けました。
江戸時代までは「木山宮」と呼ばれていましたが、明治時代の
神仏分離令により、木山寺と木山神社に分離されました。現在も木山神社の本殿は木山宮の山麓に鎮座し、奥宮は木山寺に隣接しています。
木山寺は、数多くの霊場にも数えられています。中国三十三観音霊場第四番札所、山陽花の寺二十四か寺第十番札所、
高野山真言宗美作八十八箇所霊場第三十四番札所、百八観音霊場第六番札所として、多くの巡礼者を迎えています。御詠歌にも詠まれているように、人々の悩みを癒やし、慈悲を授ける聖地として、今もなお信仰を集めています。
また、木山寺は貴重な文化財も数多く所蔵しています。
岡山県指定重要文化財として、絹本白描普賢菩薩像、絹本著色遣迎二尊十王十仏図、絹本著色阿弥陀三尊十仏来迎図、絹本著色十三仏図などが、その歴史と信仰の深さを物語っています。これらの文化財は、日本の美術史においても重要な位置を占めており、訪れる人々の心を深く揺さぶるでしょう。
歴史、信仰、そして美術工芸。医王山感神院木山寺は、それらが一体となった、他に類を見ない魅力あふれる寺院です。静寂に包まれた境内には、古の息遣いを感じることができ、訪れる人々に安らぎと感動を与えてくれるでしょう。