木曽川橋梁 (北恵那鉄道線)

木曽川橋梁（きそがわきょうりょう）

岐阜県中津川市を流れる木曽川には、かつてこの地を走っていた北恵那鉄道線の橋梁が今もその姿をとどめています。この橋は「木曽川橋梁」と呼ばれ、廃線となった現在では使用されていませんが、歴史的な価値を持つ構造物として地域の記憶に留められています。

かつての役割と路線の歴史

木曽川橋梁は、北恵那鉄道線の中津町駅（当時）と恵那峡口駅の間に位置していました。北恵那鉄道線は、木曽川沿いの恵那地域と木曽方面を結ぶローカル線として重要な役割を担っていましたが、時代の変化に伴い、1978年（昭和53年）9月18日をもってその歴史に幕を下ろしました。多くの廃線跡と同様に施設が撤去される例がある中で、この木曽川橋梁は路線廃止後もそのまま残され、当時の姿を今に伝えています。

構造と技術的な特徴

この橋梁は1924年（大正13年）に供用が開始されました。全長は134メートルに及び、5つの異なる構造を持つ部分（径間）で構成されています。具体的には、1つの径間が単線下路式のダブルワーレントラス、残りの4つの径間は単線上路式のプレートガーダーという、複数の構造形式を組み合わせた珍しい形式を採用しています。

特に注目されるのは、ダブルワーレントラスの桁です。この桁は、1886年（明治19年）にイギリスのパテント・シャフト社で製造されたものであることがわかっています。明治期にイギリスで製造された鉄道橋梁の一部が、遠く離れた大正時代の木曽川に転用された可能性が指摘されており、かつて東海道本線などで使用されていたものが移設されたのではないかと推測されています。これは日本の近代化における鉄道建設の歴史や、古い部材を再利用する当時の技術・経済状況を物語る貴重な証拠と言えるでしょう。

沿革と災害への対応

木曽川橋梁は、北恵那鉄道線の中津町駅と下付知駅間が開通した1924年（大正13年）8月5日に合わせて供用が始まりました。以来、地域の輸送を支える基盤として機能してきましたが、木曽川の増水による影響を受けることもありました。

特に、1959年（昭和34年）の伊勢湾台風では、記録的な豪雨により木曽川が増水し、橋梁が冠水する被害に見舞われました。この冠水は、下流に位置する大井ダムの存在も影響したと言われています。度重なる増水被害への対策として、1962年（昭和37年）2月から約1年2ヶ月にわたり、橋脚を約4メートルかさ上げする工事が実施されました（1963年（昭和38年）4月完成）。この改修により、橋梁の耐水性が向上し、その後の安定した運行に貢献しました。

しかしながら、社会情勢の変化やモータリゼーションの進展により鉄道の利用が減少し、最終的に北恵那鉄道線は1978年に廃止されました。橋梁はその役目を終えましたが、現在も解体されることなく残り、かつての鉄路の記憶を留めています。

現在の状況と将来

現在、木曽川橋梁は鉄道橋として使用されることはありませんが、木曽川の流れを見守るように静かに佇んでいます。その下流およそ400メートル付近では、将来的に中央新幹線の新たな橋梁が建設される計画が進められており、時代の移り変わりとともに木曽川の風景もまた変化していくことが予想されます。

木曽川橋梁は、大正時代の建設技術、明治期の英国製鉄桁の再利用、そして災害への対応という日本の鉄道史における様々な要素を内包しています。廃線後も残された姿は、地域の交通の歴史を伝える貴重な遺構として、今後もその存在感を放ち続けることでしょう。

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