大井ダム

大井ダム：木曽川の歴史を刻む重力式コンクリートダム

大井ダムは、岐阜県恵那市大井町と中津川市蛭川の境界に位置する、木曽川本流の中流部に建設された重力式コンクリートダムです。関西電力によって運用され、水力[[発電]]専用のダムとして、大井発電所と新大井発電所の二つの発電所へ水を供給し、合計で最大8万4000キロワットの電力を発電しています。

ダムの概要

大井ダムは、木曽川を横断するように建設され、下流には落合ダム、上流には笠置ダムがあります。このダムは、関西電力によって所有される発電専用の施設であり、ダムに付設された発電所としては、建設当初からある大井発電所（出力5万2000キロワット）と、河川の利用率向上のため1983年に増設された新大井発電所（出力3万2000キロワット）があります。ダムによって形成された調整池の周辺は、美しい渓谷美が広がり、「恵那峡」として親しまれています。

木曽川水系で最初に建設されたこのダムは、1924年に完成しました。高さ53.4メートルの重力式コンクリートダムであり、当時としては日本でも有数の規模を誇りました。建設を主導したのは、大正・昭和期に活躍した電力会社、大同電力の創業者であり、「電力王」と呼ばれた実業家、福澤桃介です。2007年には、中部山岳地帯の電源開発に関する近代産業遺産群の一つとして、経済産業省により「近代化産業遺産」に認定され、2023年には土木学会選奨土木遺産にも選ばれ、その歴史的価値が認められています。

設備構成

ダム

大井ダムは直線型重力式コンクリートダムであり、堤高は53.384メートル、堤頂長は275.758メートルです。堤体積は15万1753立方メートルです。ダムには21門のテンターゲート（ラジアルゲート）が設置されています。ダムによって形成される調整池の総貯水量は2940万立方メートル、有効貯水量は925万立方メートル、湛水面積は1.4平方キロメートルです。

発電所

大井ダムには、大井発電所と新大井発電所の2つの発電所があります。

大井発電所：最大使用水量139.13立方メートル毎秒、有効落差42.42メートルで、最大5万2000キロワットの電力を発電します。ダム右岸上流約80メートルの場所に取水口があり、圧力トンネルでサージタンクへ導水し、水圧鉄管を通して水車[[発電機]]を稼働させます。水車は立軸単輪単流渦巻フランシス水車、発電機は容量1万3800キロボルトアンペアのものを備えます。
新大井発電所：最大使用水量85.00立方メートル毎秒、有効落差43.96メートルで、最大3万2000キロワットをそれぞれ発電します。ダム右岸の非越流部の一部に取水口を設け、水圧管路を直結させて水車[[発電機]]を稼働させます。水車形式は立軸単輪単流渦巻フランシス水車、発電機容量は3万6000キロボルトアンペアです。

歴史

ダム建設準備

大井ダムの建設は、大正から昭和戦前期にかけての大手電力会社、大同電力によって進められました。1920年3月に木曽川の水利権を取得した大同電力は、当初は水路式発電所を計画していましたが、その後の調査でダム式発電所の方が適していると判断し、1921年8月にダム式発電所への計画変更許可を得ました。ダム建設にあたり、地質調査を行い、最適な建設地を選定しました。また、アメリカへ技術者を派遣し、ダム建設に関する技術を学びました。

工事の様相

1922年7月に着工した建設工事では、積極的な機械化が図られました。資材輸送のため、専用鉄道や索道が建設され、アメリカ製のミキサーやケーブルクレーンなどが導入されました。しかし、工事中に度重なる洪水被害や、関東大震災による金融梗塞が発生し、資金難に陥りました。このため、社長の福澤桃介自らが渡米し、外債を発行して資金を調達しました。1924年8月に湛水を開始、同年12月には大井発電所が運転を開始しました。

建設後の大井発電所の変遷

建設当初、最大4万2900キロワットだった大井発電所の出力は、1938年に4万8000キロワットに増強されました。1939年には電力国家管理のため、日本発送電に継承されましたが、戦後の1951年には関西電力へと引き継がれました。関西電力時代には、水車や水圧鉄管の更新、リフレッシュ工事などが行われ、現在の出力は5万2000キロワットとなっています。

新大井発電所建設

木曽川上流のダム建設により河川流量が安定化したため、大井ダムの余力を利用する新大井発電所の計画が立てられ、1981年に工事が開始されました。1983年に運転を開始し、大井ダムの河水利用率向上に貢献しています。

周辺

大井ダムによって誕生した人造湖は、奇岩や絶壁が続く景勝地「恵那峡」として知られています。ダム周辺は飛騨木曽川国定公園に指定され、ダム湖百選にも選ばれています。大井発電所と新大井発電所はダム直下に並んでおり、左岸には中部電力の奥戸発電所もあります。

ダムと鉄道

大同電力はダム建設に伴い、木材運搬施設として鉄道整備を義務付けられました。このため、地元と共同で北恵那鉄道を設立し、木材輸送と旅客輸送を行いました。また、ダム建設資材輸送用の専用鉄道も北恵那鉄道に譲渡されましたが、後に廃止されています。

まとめ

大井ダムは、その建設から現在に至るまで、日本の電力供給と地域開発に重要な役割を果たしてきました。その歴史と技術は、近代産業遺産として、後世に受け継がれていくことでしょう。

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