木村一郎

木村一郎

木村一郎（1915年6月29日 - 1978年8月21日）は、栃木県芳賀郡益子町出身の陶芸家で、益子焼の世界に独自の足跡を残しました。豪農の家に生まれながらも、民藝運動の影響を受け、陶芸家を志したその生涯は、伝統と革新の狭間で独自の輝きを放っています。

生い立ちと陶芸への目覚め

1915年、木村一郎は益子町の豪農の家に誕生しました。父は芸術を志す人物で、幼い頃から一郎は陶器に触れる機会に恵まれていました。1928年に真岡中学校に入学。1931年には父が早世。中学校在学中には自作の陶器を売るなど、早くから自立の精神を養っていました。

作陶の道へ

中学校卒業後、家業を手伝いながらも陶芸への情熱を絶つことはなく、1935年頃から作陶活動を本格化させます。濱田庄司に才能を認められ、濱田窯で1年半ほど修行を積みました。また、河井寛次郎の作風にも影響を受け、その作陶を手伝うことで様々な技法を習得。1937年には益子陶器競技会で受賞を重ね、商工省工芸展にも入選するなど、その才能を開花させていきました。

同年10月には、陶芸を本格的に学ぶため、周囲の反対を押し切って京都の商工省陶磁器試験場に入所。水町和三郎や澤村磁郎に師事し、技術を磨きました。京都滞在中は、濱田庄司の紹介で河井寛次郎の工房に出入りし、窯焚きなどを手伝いながら、河井の高度な技術を学びました。

1938年に試験場を修了するも、同年8月には兵役へ。戦地を転戦する中、古陶片を背に戦場を駆け巡ったといいます。1940年に帰郷後、作陶を再開。国展に入選するなど、戦火をくぐり抜けながらも、その創作意欲は衰えることはありませんでした。

1941年には結婚。高齢となった祖父に代わり益子郵便局長となりますが、作陶活動も継続し、国展への入選も果たしています。1943年には長女が誕生。戦時統制下、木村は濱田庄司、佐久間藤太郎と共に技術保存作家に認定され、陶土と薪の配給を受けました。

陶芸一筋の人生

終戦と同時に郵便局長を辞し、1946年に築窯して独立。陶芸家として生きることを決意します。初窯を焚いた1947年頃からは白磁の作品も手掛けるようになり、その作風の幅を広げていきました。また、アメリカ大使館副領事を益子に招き陶芸指導を行うなど、国際的な交流も積極的に行いました。

1959年には、日光東照宮350年祭で献茶碗の制作を依頼され、その高い技術が評価されました。1962年には香淳皇后が木村の作品を購入。1965年には日本工芸会を脱会し、在野の陶芸家として独自の道を歩み始めます。1973年には韓国を訪問し、現地の窯元や陶芸家との技術交流を行いました。

木村一郎は、濱田庄司から柿釉、河井寛次郎から練上げや辰砂釉、富本憲吉から象嵌、バーナード・リーチから筒描きといった様々な技法や釉薬を学び、自身の作風に取り入れました。李朝風の陶器も好み、その完成度の高さは、単なる民芸の陶工に留まらない、異色の陶芸家としての評価を確立しました。

1977年には益子の道祖土に転居し、新たな作風に挑戦しようとしましたが、1978年8月21日、骨肉腫のため63歳で逝去しました。

家族と弟子

木村の長女の夫である木村充は、木村窯2代目として益子焼の陶芸家となりました。次女の萠子も陶芸家となり、木村の血筋は陶芸の世界で受け継がれています。また、木村充の長男である木村充良は、祖父・一郎の登り窯を受け継ぎ、益子焼の陶芸家として活躍しています。阿部文貴、松原直之、山口孟といった弟子を育成し、その技術と精神を後世に伝えました。

木村一郎は、益子焼の伝統を受け継ぎながらも、独自の感性と技術で新たな境地を切り開いた陶芸家です。その作品は、国内外で高く評価され、今もなお多くの人々に愛されています。

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