木村七郎

木村 七郎（きむら しちろう）は、1935年3月25日に宮城県で生まれた日本の元プロボクサーであり、著名なボクシング指導者、そして日本プロボクシング界の要人であった。新日本木村ボクシングジムを設立し、長年にわたり業界の発展に多大な貢献を果たした人物である。そのキャリアは選手としての活躍に始まり、引退後は指導者、さらには協会役員として多岐にわたる足跡を残している。

アマチュア時代の経験

高校時代には宮城県の名取高校で野球部員として正捕手のポジションを務め、その後、東北学院大学のボクシング部の練習に参加してボクシングの道に進んだ。アマチュア選手として活動した期間には、宮城県高校フライ級で優勝するなど実績を挙げ、通算23戦21勝2敗という好成績を収めた。

プロボクサーとしての歩み

高校卒業後、木村は志を抱いて無一文の状態で上京。神田駅近くの金物屋に職を得ながら生計を立てつつ、新橋にあった名門ジム、新和拳（現在の横浜光ボクシングジム）の門を叩いた。アマチュアでの活動を精力的に続け、東京都チャンピオン、さらには関東大会でも優勝を果たすなど、その実力を磨き、1956年12月1日にプロのリングに上がった。

プロ転向後の翌年、1957年4月21日には、若手ボクサーの登竜門である全日本新人王決定戦に出場。今村博に判定で勝利を収め、見事に新人王の栄冠を手にした。1958年4月4日には、後に日本を代表するトレーナーとなる三迫仁志と対戦。白熱した試合は10回の判定にもつれ込んだが、木村が勝利を収めた。この試合は、三迫にとってプロキャリアの最終戦となった。

同年6月27日、メルボルンオリンピックで4位入賞の輝かしい経歴を持つ米倉健志のプロデビュー戦となる8回戦で対戦した。この一戦は、木村が腰痛や目の負傷を抱えながらもリングに上がったことが影響し、4回に負傷判定による敗北を喫する結果となった。しかし、その後の9月30日には、将来日本王者となる実力者、福本篤人と対戦し、10回判定で勝利を収めるなど、第一線で活躍を続けた。

1958年12月16日には、当時の日本フライ級チャンピオンであった矢尾板貞雄に挑戦する機会を得た。タイトル奪取をかけた重要な一戦であったが、激しい攻防の末、10回判定で惜しくも敗れ、王座獲得は叶わなかった。

1959年4月28日、木村は再び福本篤人と対戦した。前回の判定勝ちとは異なり、この試合では9回TKOによる鮮やかな勝利を収めた。この一戦を最後に、木村はプロボクサーとしてのキャリアにピリオドを打った。現役時代の最高位は、OPBF（東洋太平洋）フライ級2位であった。

ジム設立と「再生工場」

プロボクサーを引退して2年後の1961年、木村は自身のボクシングジムを設立した。これが、後に多くの名選手を輩出する新日本木村ボクシングジムの前身となる。指導者としての木村の手腕は非常に高く評価され、小熊（大熊）正二を世界チャンピオンへと導いたのをはじめ、数多くのボクサーを育て上げ、世界タイトル挑戦者、東洋太平洋チャンピオン、日本チャンピオンを輩出した。

特に、他のジムで才能が十分に開花しなかった選手や練習生を受け入れ、彼らの潜在能力を見抜き、飛躍させる指導力は特筆される。この手腕から、木村ジムは「再生工場」あるいは「リサイクル王」という異名で呼ばれ、その実績は日本ボクシング界でも広く知られている。実際に、木村ジムに移籍してきた選手のうち6人が日本タイトルを獲得しており、その指導力の高さを証明している。

ジム設立と同じ1961年には、黎明期のテレビボクシングを支えたTBSと極東ボクシングクラブが共催した「ボクシング教室」の全国オーディションに審査員として参加。ここで後の世界王者となる沼田義明を発掘するなど、早い段階から日本のボクシング界の将来を担う人材育成にも深く関与していた。

協会での活動とプロモーターとして

指導者としてだけでなく、木村は日本ボクシング界全体の発展と安全性向上にも尽力した。1984年3月から1986年3月までの期間、東日本ボクシング協会の会長を務めた。この在任中、彼は選手の健康管理と安全確保を最優先課題とし、日本ボクシングコミッション（JBC）に対し、現役すべての選手およびプロテストの全受験者に対して頭部CT検査の受診を義務付けることを強く提言し、これを実現させた。これは、ボクサーの健康問題が社会的な注目を集めるようになる以前の時代において、選手の安全を守るための先駆的な取り組みとして評価されている。

また、プロモーターとしても辣腕を振るい、佐藤仁徳、ハリケーン照、徳山昌守など、他ジム所属の著名なボクサーたちの世界タイトルマッチや東洋太平洋タイトルマッチといったビッグイベントの開催に数多く尽力した。さらに、後に日本ボクシング界で大きな旋風を巻き起こした亀田三兄弟が所属した亀田ジムの創設にも、木村が深く関与していたことが知られている。

ジム会長職の承継

長年にわたり新日本木村ボクシングジムの会長として陣頭指揮を執ってきたが、2020年12月16日に行われた東日本ボクシング協会の定例理事会において、ジムの名義を実息である木村英之氏に譲渡し、会長職を退くことが報告・承認された。これにより、ジムの経営は次世代へと円滑に引き継がれた。

まとめ

プロボクサーとして全日本新人王を獲得し、引退後は指導者として小熊正二をはじめとする多数の王者を育て「再生工場」として知られた。さらに、東日本ボクシング協会会長として頭部CT検査義務化といった業界改革を推進し、プロモーターとしても数々の重要な試合を実現するなど、木村七郎は日本のプロボクシング界において、選手、指導者、経営者、そして役員と、多方面から多大な貢献を果たした。その功績は、日本のボクシング史において重要な一章を占めるものである。

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