木活字版

木活字版とは：江戸時代の出版文化を支えた技術

木活字版とは、木製の活字を用いて印刷された出版物のことを指します。特に、江戸時代中期から明治時代初期にかけて出版されたものを指す場合があります。この時代の木活字版は、初期の古活字版と区別され、研究者によって定義が異なります。寛永年間以降とする説と、天明・寛政年間以降とする説があります。また、古活字版より後代の明治以前の活版印刷物（金属活字を含む）を全て木活字版とする説も存在します。

日本における木活字版の役割

日本では、活版印刷が普及せず、寛永期以降は整版が主流となりました。しかし、その後も木活字を用いた印刷は細々と続けられていました。転機となったのは、天明・寛政期です。清から伝わった印刷技術書『欽定武英殿聚珍版程式』がもたらされ、木活字印刷の改良が進みました。この改良により、1枚の板を版とする整版よりも経済的なコストが削減され、簡便になったため、小資本・少部数の出版が可能となりました。その結果、私家版や素人版といった現代の自費出版に利用されるようになり、江戸幕府の教育機関や地方の藩校、学者の私塾などの教科書にも用いられました。

木活字版と出版の自由

当時の出版業界では、整版の版木製作・所持者が権利者であるという慣習がありました。著作権という概念がなかったためです。そのため、版元である三都の書林（本屋）などは、木活字版を排斥する動きもありました。しかし、個人による刊行は、書林のように幕府や諸藩の統制を受けにくかったため、政治関係の書籍や新規の学説・主張などを取り込んだ書籍が多く刊行されました。現存する木活字版は1000種類を超えています。

木活字版は、江戸時代の出版文化において、多様な書籍の刊行を可能にし、出版の自由を促進する役割を果たしました。

参考文献

長澤規矩也著『近世木活字印本』（『図書学参考図録』第3-5輯　（汲古書院、1977年））
岸本眞実「木活字版」（『日本歴史大事典』3（小学館、2001年） ISBN 978-4-09-523003-0）

関連項目

古活字本
木版

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