未来派野郎

アルバム『未来派野郎』の概要

坂本龍一による1986年4月21日に発表された『未来派野郎』は、彼の6作目となるオリジナル・アルバムです。このアルバムは、一年半ぶりにリリースされ、タイトルの「未来派」は20世紀初頭のイタリアで生まれた芸術運動に由来しています。

制作背景

『未来派野郎』は、坂本が過去1年半の間に培った音楽スタイルを集約した意欲作で、サウンド面ではフェアライトCMIやEmulatorⅡを用いた機械音や金属音のサンプリング、さらにヤマハDX7を駆使しています。プログラムは藤井丈司が主に担当し、アルバム制作にあたって7ヶ月の時間がかかりましたが、坂本自身は各トラックの密度の高さに手応えを感じていました。

このアルバムの制作において、坂本はロックのエッセンスを取り入れるため、レッド・ツェッペリンの全アルバムをじっくり聴き直しました。このプロセスは、彼が参加したパブリック・イメージ・リミテッドのアルバム制作における経験からインスパイアされたものです。そのため、本作は坂本の音楽の中でも特にロックの要素が色濃く表れたものとなりました。

未発表の楽曲「Futurista」は、後に2018年にリリースされた『Year Book 1985-1989』に収録され、このアルバムのタイトル・トラックとなった可能性があったという興味深いエピソードもあります。また、イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」に影響を受けて作曲したという、歌謡曲のような未発表のトラックも存在します。

収録曲の詳細

1. Broadway Boogie Woogie
ピーター・バラカンの歌詞による坂本初のブルースコードを使ったロックンロール調のダンスナンバー。モンドリアンの絵画にその名を由来し、独特な男女の会話が映画『ブレードランナー』からサンプリングされています。

2. 黄土高原
坂本の作品の中で比較的オーソドックスなコード進行を持ち、フュージョン的な要素が強い楽曲です。特にエレクトリックピアノの演奏は、録音後PCソフトで編集が施され、独自なグルーヴを追求しました。

3. Ballet Mécanique
矢野顕子の歌詞によるこのトラックは、サンプリングによって独自のリズムを形作っています。坂本からの指示でギターソロを何度も録音し、一つのトラックにまとめ上げられました。

4. G.T.IIº
先行シングル「G.T.」の別ミキシングバージョン。老舗音楽のエッセンスを取り込み、ボーカルはバーナード・ファウラーが担当。

5. Milan, 1909
「未来派」の文化的背景を反映したトラックで、朗読部分はMacintoshソフトで合成されています。マリネッティの未来派宣言年にちなんで制作されました。

6. Variety Show
ヒップホップのビートの上にマリネッティの言葉が乗せられたこの曲は、その名が示すように多様な音源を活用しています。

7. 大航海 Verso lo schermo
ヒップホップとオペラの要素を融合させた曲で、複雑な転調が特徴です。

8. Water is Life
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の音源をコラージュした独特なスタイルが見どころ。

9. Parolibre
未来派にちなんだタイトルを持つこの楽曲は、プッチーニのオペラを連想させる音楽構成がなされています。

10. G.T.
アルバムの最後に収録されているボーナス・トラックで、意識的にライブでの演奏が可能なアレンジがされています。

まとめ

『未来派野郎』は、坂本龍一による先進的な音楽表現が際立った一枚であり、未来派というテーマを通じて彼の音楽的探求心が色濃く表れています。このアルバムは、リリースから時間が経ってもなお、その革新性で多くのリスナーに影響を与え続けています。

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