本圀寺の変

本圀寺の変：足利義昭と織田信長、そして三好三人衆の攻防

永禄12年1月5日（1569年1月31日）、室町幕府15代将軍・足利義昭は、下京郊外の六条本国寺（本圀寺）で、三好三人衆（三好長逸、三好宗渭、石成友通）の襲撃を受けました。この事件、そしてそれに続く合戦は「本圀寺の変」と呼ばれ、戦国時代の権力争いの激しさを象徴する出来事の一つです。本圀寺合戦、あるいは六条合戦とも呼ばれています。

複雑な権力闘争の舞台

永禄8年（1566年）の永禄の変で13代将軍・足利義輝を滅ぼした三好三人衆は、その後、家中の主導権を松永久秀と争い、畿内を混乱に陥れていました。当初、彼らは足利義栄を次の将軍に擁立しましたが、義輝の弟である足利義昭も将軍候補として存在していました。三好三人衆は義昭の上洛を妨害し、義栄を将軍に据えようとしましたが、義昭は諸国の大名から支援を得て、上洛を目指しました。

織田信長は永禄9年（1566年）8月、義昭を奉じて上洛を試みましたが、美濃の斎藤龍興の襲撃に遭い失敗。その後も、若狭武田氏や越前朝倉氏の協力を得て上洛を試みましたが、ことごとく頓挫しました。しかし、織田信長は美濃を平定し、永禄11年（1568年）秋、再び義昭を奉じて上洛、三好勢を破り、義昭は芥川山城に入城しました。

義昭は摂津、河内の支配者を任命し、彼を支えた松永久秀には大和一国を与えると約束しました。その後、義昭は六条本国寺に、信長は清水寺に布陣しました。本国寺は広大な寺域を持つ要害であり、京の町衆の信仰を集める日蓮宗寺院だったため、義昭軍にとって戦略的に重要な拠点となりました。さらに信長も、本国寺周辺の防御を強化しました。

義昭は将軍宣下を受け、正式に15代将軍となりましたが、信長は岐阜に帰還しました。松永久秀も信長への礼を済ませるため岐阜に下りました。

三好三人衆の反撃と本圀寺の激戦

信長と松永久秀が不在となった隙を突いて、三好三人衆は反撃を開始しました。彼らは和泉家原城を落とし、京へと進軍、将軍の退路を断つため洛東や洛中周辺に放火しました。義昭は本国寺に籠城し、幕府軍と信長家臣、若狭武田氏家臣が必死に防戦しました。激戦は日没まで続き、将軍方は犠牲者を出すものの、三好勢の攻撃を撃退しました。明智光秀もこの戦いに参加しており、この頃から歴史の表舞台に現れ始めました。

細川藤孝、三好義継、池田衆、伊丹衆などが義昭救援のため攻め上がり、三好勢を三方から攻撃。本国寺の籠城軍もこれに加勢し、三好勢は敗走しました。この戦闘で多くの犠牲者が出ました。

信長の急行と二条城の建設

信長は急報を受け、大雪の中、京へ急行しました。到着時には三好勢はすでに撤退していました。信長は本国寺の堅牢さを確認すると、防御力の高い将軍御所が必要だと判断し、二条御所跡に新たな城郭「武家御城」（二条城）の建設を決定しました。わずか70日あまりで完成した新城には、本国寺の建築物が多く使用され、僧侶らの反対にも関わらず、多くの寺宝も移築されました。4月には義昭が新城に移りました。

本圀寺の変は、足利義昭、織田信長、そして三好三人衆といった勢力間の複雑な権力闘争と、その中で繰り広げられた激しい戦闘を描いた歴史的事件です。この事件は、その後も続く戦国時代の動向に大きな影響を与えました。また、本圀寺の変は、信長による近世的な城郭建設の始まりを象徴する出来事でもありました。

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