本多正重

本多正重：波乱に満ちた武将の生涯

本多正重は、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した、知略と武勇を兼ね備えた武将です。本多正信の実弟として知られ、生涯において徳川家康への忠誠と離反、そして再びの帰参という、劇的な転身を遂げました。その生涯は、時代の激動と、彼自身の複雑な心情を反映する、ドラマチックなものでした。

徳川家康への忠誠と離反

天文14年(1545年)、本多俊正の四男として誕生した正重は、若き頃から松平家康（後の徳川家康）に仕え始めます。しかし、永禄6年(1563年)に勃発した三河一向一揆では、兄の正信と共に一揆勢に加わり、家康と対立しました。針崎の勝鬘寺に立て籠もり、大久保忠世らと激しい戦闘を繰り広げたという記録も残されています。一揆鎮圧後、家康は正重を許し、再びその家臣として迎え入れました。

その後、正重は数々の戦いで活躍します。永禄11年(1568年)の掛川城攻めでは先鋒として奮戦し、姉川の戦い、三方ヶ原の戦い、長篠の戦いなど、重要な合戦で武功を挙げました。特に、武田信玄との戦いでは、殿軍として家康軍を後方から守り抜き、その勇猛さは家臣団の中でも高く評価されました。

諸家への仕官と再び徳川家へ

しかし、正重はその後、突如として徳川家を離れ、織田信忠、前田利家、蒲生氏郷といった有力大名に仕えます。「槍の三弥」と称されたその武名は、他家においても高く評価され、要職を任されたようです。この期間、正重の長男・正氏は徳川家に仕えていましたが、秀次事件に巻き込まれ、自害するという悲劇に見舞われました。

慶長元年(1596年)、正重は伏見において家康に召し出され、徳川家へ帰参。関ヶ原の戦いでは検使として活躍し、近江国に所領を与えられました。慶長19年(1614年)からの大坂の陣では、徳川家康、秀忠に仕え、その武略は高く評価されました。

下総舟戸藩主と最期

大坂の陣での功績により、元和2年(1616年)、正重は下総国相馬郡に1万石を与えられ、大名として舟戸藩を立藩しました。しかし、まもなく隠居し、翌元和3年(1617年)に73歳でこの世を去りました。

正重には複数の子供がいましたが、長男の正氏は既に亡くなっており、次男も早世したため、外孫である本多正貫が養子として家督を継ぎました。しかし、正貫が相続した所領は8000石にとどまり、残りの2000石は没収されました。これは正重の遺言によるものか、あるいは正純による策略によるものか、諸説あります。舟戸藩は一時的に廃藩となり、その後、正貫の孫の代に大名として再興、幕末には駿河田中藩の藩主としてその歴史を閉じました。

個性的な人物像

正重は、優れた武将であった一方、その性格は複雑で、型破りなエピソードが多く残されています。『藩翰譜』には「天性腹悪き人なれど、又極めて正直の人なりけり」と評されており、家康を前に大胆な発言をするなど、型にはまらない行動が目立ちました。その奔放な性格は、時に家康を呆れさせることもありましたが、同時に、その忠誠心と武勇は、家康からも認められていたと言えるでしょう。

本多正重の生涯は、忠義と裏切り、栄光と挫折が複雑に絡み合った、まさに波乱万丈の物語でした。彼の生き様は、戦国時代という激動の時代を生き抜いた武将の一つの姿を、鮮やかに描き出しています。彼の武勇と個性は、今もなお人々の記憶に強く刻まれています。

もう一度検索