本沢温泉

八ヶ岳連峰の懐深く、標高2,150メートル地点に位置する本沢温泉は、長野県南佐久郡南牧村にあります。この温泉地へは、一般車両やバスでは直接アクセスできず、徒歩による登山ルートを辿ることで初めて到達できます。文字通り、山中に湧き出す秘湯として知られています。

本沢温泉の歴史は古く、明治時代初期の1882年（明治15年）に創業しました。現在、当地には一軒宿である「本沢温泉」が存在し、その機能は温泉旅館であると同時に、周辺の硫黄岳や天狗岳など八ヶ岳連峰の主要峰を目指す登山者にとって重要な山小屋としての役割も担っています。この宿の特徴として、通年営業を行っている点が挙げられ、日本の温泉宿としては最も標高の高い場所にあることで知られています。宿泊客は24時間いつでも内湯を利用できるのも嬉しい点です。

本沢温泉の大きな魅力の一つは、宿から歩いておよそ10分ほどの距離にある露天風呂「雲上の湯」です。この野趣あふれる露天風呂は、日本国内に存在する露天風呂の中で最高所に位置すると言われています。湯船は3～4人ほどが入れるこぢんまりとしたサイズですが、その傍らには「日本最高所野天風呂」と記された立て札が立っており、訪れる者にその特別な場所であることを示しています。しかし、自然そのままの環境を大切にしているため、脱衣所や周囲からの視線を遮るための目隠しなどは一切設けられていません。大自然の中で開放感あふれる湯浴みを楽しむことができます。

泉質

本沢温泉の泉質は、場所によって異なります。主に酸性を含んだ含硫黄泉で、カルシウムやマグネシウム、硫酸塩などを成分とする温泉が湧出しています。内湯と露天風呂「雲上の湯」では、それぞれ異なる泉質の湯を楽しむことができます。

アクセス方法

本沢温泉へのアクセスは、その秘境性ゆえに容易ではありません。

公共交通機関を利用する場合：
JR小海線松原湖駅から、小海町が運行する路線バス（稲子湯行き）に乗り、終点で下車します。そこから登山道に入り、「しらびそ小屋」を経由して、約3時間半の道のりを徒歩で進みます。
あるいは、JR中央本線茅野駅からアルピコ交通（諏訪バス）の麦草峠線に乗車し、麦草峠または白駒池で降ります。これらの地点から八ヶ岳の稜線ルートを経由して、徒歩で約4時間から4時間半の登山となります。

自家用車を利用する場合：
* 上信越自動車道の佐久インターチェンジから、本沢温泉方面へ向かい、普通乗用車用の駐車場までは約1時間かかります。夏期の場合、普通乗用車駐車場から宿まではさらに徒歩で約2時間が必要です。さらに奥に進んだ四輪駆動車専用の駐車場からは、徒歩で約1時間となります。冬季（雪のある時期）は、本沢林道の入口で車両通行が規制されるため、そこから約5時間を要する過酷な徒歩行程となります。

補足情報

なお、本沢温泉の一帯は、行政上の区分では長野県南佐久郡南牧村海尻字本沢に含まれますが、日本郵便から交通困難地の指定を受けている地域です。このため、年間を通じて外部からこの地域宛てに郵便物を送ることは原則としてできません。

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