本牧亭

本牧亭（ほんもくてい）

本牧亭は、東京都台東区上野に存在した、講談専門の寄席です。1857年（安政4年）に、本牧屋仙之助（後の鈴木龍助）によって、上野広小路に軍談席（講釈場）として開場したのが始まりです。この名称は、仙之助の屋号「本牧屋」に由来します。

歴史

創業と一時閉場

当初は軍談席としてスタートした本牧亭ですが、1876年（明治9年）に一度閉場します。その後、同じ上野に鈴本亭（後の鈴本演芸場）が開業しました。

再建と講談専門の席へ

1950年（昭和25年）、鈴本演芸場の3代目席亭である鈴木孝一郎によって、鈴本演芸場の裏に本牧亭が再建されました。当時、鈴本演芸場が落語や色物を中心とする寄席になっていたのに対し、本牧亭は日本で唯一の講談専門の席として復活しました。

講談の普及と発展への貢献

再建された本牧亭は、「講談バス」を運行したり、「講談若い人の会」を開催するなど、積極的に講談の普及活動を行いました。これにより、多くの講談師や愛好家が育ち、講談の発展に大きく貢献しました。1959年（昭和34年）には、「講談特選会」の開催によって芸術奨励賞を受賞。また、安藤鶴夫の小説「巷談本牧亭」は、この寄席を舞台に描かれ、1964年に直木賞を受賞しました。

再び閉場と移転

1972年（昭和47年）に建物を改築して公演を続けましたが、1990年（平成2年）に再び閉場しました。その後、1992年（平成4年）には、文京区湯島に小規模ながら再開し、2002年（平成14年）には上野に移転、「黒門町本牧亭」として月数回の公演を行っていました。この間、講談の公演がない時は、日本料理店「本牧亭」として営業していました。

完全閉場とその後

しかし、2011年（平成23年）9月24日、経営悪化のため黒門町本牧亭は閉場しました。ただし、講談公演自体は若手講談師育成のために別の場所を借りて続けたいという意向が示されました。その後、近隣のお江戸上野広小路亭など、永谷商事が運営するホールなどで講談公演が行われています。同年11月9日、東京地方裁判所から破産手続き開始決定を受け、本牧亭は清算手続きに入りました。

名称の由来

本牧亭の名称の由来については、上野周辺の風景が横浜の本牧に似ているためという説がありますが、席亭を務めた清水孝子氏によれば、これは誤りです。この説は長谷川伸が書いたものが広まったとされています。正しくは、創業者の仙之助の屋号である「本牧屋」に由来します。ただし、六代目三遊亭圓生の『江戸散歩』には、近くにあった菓子屋「金沢」にちなんで名付けられたという異説も紹介されています。

関連書籍

本牧亭に関する書籍としては、以下のようなものがあります。

石井英子『本牧亭の灯は消えず - 席亭・石井英子一代記』
安藤鶴夫『巷談本牧亭』
吉川潮『本牧亭の鳶』

関連情報

映画『愛のお荷物』（1955年公開）：当時の本牧亭の映像が残っています。
* 【講談放浪記#04】鈴本演芸場 ～本牧亭の記憶をたずねて～（神田伯山ティービィー） - Youtube

まとめ

本牧亭は、講談文化の発展に大きく貢献した歴史ある寄席であり、その存在は多くの人々に愛されてきました。閉場後も、その精神は受け継がれ、別の場所で講談公演が続けられています。

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