本郷新

本郷新：戦後日本の彫刻界を代表する巨匠

本郷新（1905年-1980年）は、北海道札幌市に生まれた日本の彫刻家です。戦後日本の具象彫刻を牽引した巨匠の一人として知られ、彫刻の社会性、公共性を重視した作品制作で知られています。数多くのモニュメンタルな野外彫刻を手がけ、その作品は北海道から鹿児島県まで全国各地に点在しています。

生い立ちと教育

本郷新は、札幌農学校卒業後に種苗・農具会社を設立した父と、スミス女学院卒業の母のもと、6人兄弟の次男として生まれました。キリスト教的な家庭環境で育ち、幼少期は札幌で過ごしました。札幌第二中学校（現・北海道札幌西高等学校）に入学後、父の事業が東京に進出したことを機に、東京の順天中学校に転校。東京で展覧会を目にするようになり、美術への関心を深めていきました。

父の意向により札幌に戻り、北海中学校（現・北海高等学校）を経て、東京高等工芸学校彫刻部（現・千葉大学工学部）に入学。在学中は、高村光太郎に作品を批評してもらうなど、熱心に彫刻を学びました。卒業後は造幣局への就職を斡旋されましたが、これを断り、彫刻家への道を歩むことを決意します。学校で徹底的に叩き込まれたメダル彫刻の技術は、後に彼のレリーフ彫刻の卓越した技量につながりました。

結婚と創作活動

1930年、画家・俣野第四郎の妹である俣野温子と結婚。その後、東長崎、そして梅丘へと移り住み、約50年間をそこで過ごしました。1931年には国画会の国画奨学賞を受賞し、1934年には国画会員となります。しかし、1939年には国画会を脱会し、舟越保武、佐藤忠良、柳原義達らとともに新制作協会彫刻部を創設。中心メンバーとして活躍しました。太平洋戦争下の1942年には、日本大学での講義をまとめた著書『彫刻の美』を出版。2万5千部もの発行部数を記録するベストセラーとなりました。

1944年には妻・温子を結核で亡くすという悲劇に見舞われますが、その後再婚。1945年には日本美術会創設にも参加し、1948年には日本共産党に入党。1950年以降は、野外彫刻に積極的に取り組むようになりました。

社会運動と国際交流

平和運動にも積極的に参加し、1952年にはウィーン平和会議に出席するため渡欧。チェコやソ連の社会主義リアリズムに触れ、大きな影響を受けました。1956年にはアジア連帯文化使節団の一員として、世界各地を訪問しました。

代表作と公共彫刻

本郷新は、ヒューマニズムに満ちたモニュメンタルな野外彫刻を数多く制作しました。代表作の一つである「嵐の中の母子像」は、平和の象徴として広島平和記念公園に設置され、多くの人の心を捉えました。また、1950年に上野駅前に設置された「汀のヴィーナス」は、日本で初めて公共の場に設置された裸婦像と言われています。西洋では一般的であった野外彫刻文化を日本に紹介した先駆者でもありました。

彼の作品は、公共空間における彫刻のあり方を問いかけるものでもありました。そのため、政治的・社会的な理由から、作品が損壊される事件も複数発生しています。「わだつみ像」や「風雪の群像」などがその例として挙げられます。

晩年と美術館

1965年には小樽市に、1977年には故郷札幌にアトリエを建設。1979年には勲三等瑞宝章を受章しました。1980年、肺癌のため死去。没後、彼の作品コレクションとアトリエは札幌市に寄贈され、本郷新記念札幌彫刻美術館として一般公開されています。

主な作品設置場所

本郷新の作品は、北海道庁、札幌駅南口公園、札幌グランドホテル、広島平和記念公園、立命館大学など、日本各地の公共施設や公園に設置されています。その作品群は、彼の芸術理念と、社会への深い関わりを今に伝えています。

受賞歴

1931年：国画奨学賞
1944年：野間美術賞
1953年：日本平和文化賞
1959年：日本国際美術展優秀賞
1974年：北海道新聞文化賞
1978年：北海道文化賞
* 1979年：勲三等瑞宝章

本郷新は、戦後日本の彫刻界に多大な貢献を果たした、重要な芸術家の一人です。彼の作品は、人々の心に深く刻まれ、日本の彫刻史に大きな足跡を残しています。

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