札幌軟石

札幌軟石とは

札幌軟石（さっぽろなんせき）は、北海道札幌市南区で産出される凝灰岩の石材です。その柔らかさから「軟石」とも呼ばれ、明治時代から昭和初期にかけて、札幌市や小樽市周辺の建築物に広く利用されました。

軟石の形成

約4万年前、支笏カルデラ（現在の支笏湖）の火山活動によって大規模な火砕流が発生しました。この火砕流が冷えて固まった溶結凝灰岩が、札幌軟石の正体です。噴出物は広範囲を覆い、現在の札幌市南区まで到達しました。この火砕流堆積物が、長い年月を経て札幌軟石となったのです。

発見と利用

1871年（明治4年）、札幌を訪れた外国人技師A・G・ワーフィールドとトーマス・アンチセルによって、札幌南部の穴の沢（現在の札幌市南区石山地区）で軟石が発見されました。彼らは、軟石が加工しやすく、断熱性も高いという利点を見出し、開拓使に利用を推奨しました。その結果、1875年（明治8年）から軟石山での採石が始まり、1910年（明治43年）には札幌石材馬車鉄道が開業し、採石された軟石が市内各地へ運ばれました。軟石は、開拓時代の主要な建造物の資材として広く使われ、石山という地名や石山通りの名称も、この軟石の採石に由来します。なお、同時期には硬石山から札幌硬石も採掘されていました。また、北広島市島松川流域では島松軟石も採掘されています。

現代の動向

昭和30年代以降、コンクリートブロックの普及により、建材としての軟石の需要は激減しました。2019年（令和元年）時点で、札幌軟石を採掘している業者は、常盤地区の1社のみとなっています。しかし、札幌軟石の採掘・加工・販売を行う辻石材工業は、1892年（明治25年）創業の老舗企業として、現在もその技術を継承しています。2005年から2010年にかけて行われた調査では、札幌市内に約300棟の軟石建築物が確認されています。

また、石切場跡は石山緑地や藻南公園として整備され、北海道地質百選にも選ばれるなど、観光資源としての価値も高まっています。さらに、札幌軟石を使用した雑貨やパン焼き窯など、新たな活用法も見出され、軟石の端材を活用したお土産なども制作されています。

主な建築物

パタゴニアアウトレット札幌南（旧札幌酒造倉庫）

1874年（明治7年）竣工。当初は酒造倉庫として利用され、後にパタゴニアの店舗となりました。札幌軟石の歴史を伝える建築物の一つです。

小樽運河倉庫群

1890年（明治23年）から1894年（明治27年）にかけて建てられた倉庫群で、木骨石造または木骨レンガ造となっています。小樽の観光名所として知られ、歴史的な景観を形成しています。

旧岡田倉庫

1897年（明治30年）竣工の木骨石造の倉庫で、江別市指定文化財です。当時の建築技術を今に伝えています。

旧札幌電話交換局舎

1898年（明治31年）竣工の石造建築物で、現在は博物館明治村に移築され、重要文化財として保存されています。

カトリック北1条教会カテドラルホール

1898年（明治31年）竣工。札幌景観資産にも指定されている、美しい教会建築です。

小林酒造四番蔵・五番蔵・六番蔵・蒸米場

1900年（明治33年）竣工の木骨石造の建造物で、登録有形文化財です。酒造りの歴史を物語る建物です。

日本キリスト教団札幌教会

1904年（明治37年）竣工の石造教会で、登録有形文化財です。札幌の歴史的建造物として知られています。

旧札幌拓殖倉庫

1907年（明治40年）竣工の倉庫で、北海道開拓の村に移築され保存されています。開拓時代の歴史を伝えます。

旧小樽新聞社

1909年（明治42年）竣工の木骨石造3階建ての建物で、北海道開拓の村に移築されています。当時の新聞社の様子を今に伝えます。

旧札幌農学校第2農場サイロ

1912年（大正元年）竣工。札幌農学校の歴史を伝える建築物です。

西洋美術館（旧浪華倉庫）

1925年（大正14年）竣工の木骨石造の建物で、小樽市指定歴史的建造物です。現在は美術館として利用されています。

札幌市資料館（旧札幌控訴院庁舎）

1926年（大正15年）竣工の石造、煉瓦造、鉄筋コンクリート造の複合建築で、重要文化財です。札幌の歴史を伝える重要な建築物です。

ぽすとかん（旧石山郵便局）

1940年（昭和15年）竣工。札幌景観資産で、現在は軟石雑貨を扱うショップとカフェとして運営されています。地元有志による再生プロジェクトが成功した事例です。

KT三条ビル

1961年（昭和36年）竣工のビルで、2007年（平成19年）に札幌軟石を外壁に用いてリニューアルされました。現代建築にも軟石が活用された例です。

石山神社鳥居・狛犬・灯篭

札幌軟石で作られた石造物です。歴史と文化を感じさせる存在です。


札幌軟石は、その独特の風合いと歴史的価値から、現在でも多くの人々に愛されています。建築物だけでなく、雑貨やアート作品など、さまざまな形でその魅力を発信し続けています。

もう一度検索