朱文圭

朱文圭（しゅ ぶんけい）

朱文圭は、1401年に明の第2代皇帝である建文帝の次男として誕生しました。母は孝愍皇后（馬皇后）です。しかし、彼の人生は、幼少期に起きた靖難の変によって大きく翻弄されることになります。

幽閉された幼少期

1402年、大叔父にあたる燕王朱棣がクーデター（靖難の変）を起こし、父の建文帝は行方不明となります。母の馬皇后は自害し、兄の皇太子朱文奎も消息を絶ちました。クーデターを成功させた朱棣は永楽帝として即位し、建文帝派の人物を多く処刑しましたが、当時2歳だった朱文圭は、永楽帝によって命を救われます。しかし、朱文圭は皇族の身分を剥奪され、「建庶人」と降格させられた上で、太祖洪武帝（朱元璋）の生地である鳳陽（現在の安徽省鳳陽県）に置かれた中都の広安宮に幽閉されることになりました。

長きにわたる幽閉生活

幼い朱文圭は、広安宮での幽閉生活を余儀なくされます。外界との接触を絶たれ、皇族としての教育も受けられないまま、長い年月をそこで過ごしました。永楽帝から数えて4代後の皇帝である景泰帝の時代になっても、彼の幽閉状態は変わりませんでした。

恩赦と解放、そして短い余生

1457年、状況は大きく変わります。景泰帝の兄である英宗正統帝が、土木の変以来の軟禁状態から復権し、天順帝として再び即位したのです。英宗は、自身も幽閉されていた経験から、同じような境遇にあった朱文圭に同情を寄せました。重臣の李賢もこの意向に賛同し、母の孫皇后の許しも得た上で、英宗は朱文圭の解放を決断します。宦官の牛玉を遣わし、朱文圭に恩赦を伝えた際、彼は喜びと悲しみが入り混じった複雑な表情を見せたといいます。また、幼少期から外界と隔絶されていたため、馬や牛すら認識できなかったという逸話も残っています。

靖難の変から55年、57歳になった朱文圭は、ようやく罪を許され、皇族として復帰を果たしました。妻を娶り、行動の自由も許されましたが、長年の幽閉生活が祟ったのか、間もなく病没しました。

その後の評価

朱文圭の死後も、彼の「建庶人」としての記録は残っており、彼の子孫と推定される人々も存在します。また、後世の歴史家からは概ね低く評価される英宗の統治において、この朱文圭への恩赦は数少ない善政の一つとして評価されています。

明の滅亡後、亡命政権である南明の歴代皇帝からは、潤懐王または原懐王という諡号が贈られています。

朱文圭の生涯は、明朝の歴史における悲劇的な出来事の一つであり、権力闘争の犠牲となった一人の皇族の姿を今に伝えています。

参考文献

『思文大紀』巻4
『南明史』巻7
* アジア歴史事典（平凡社）

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