朱雀家の滅亡

朱雀家の滅亡

三島由紀夫の戯曲『朱雀家の滅亡』は、昭和19年の春から訪戦を経て昭和20年の冬までの東京を舞台に、皇族に仕えてきた華族「朱雀家」の運命を描いています。本作は、全4幕構成で、タイムラインが日本の太平洋戦争の終わりを背景に展開され、豪華な家屋の中で起こる運命の重みを表現しています。

この戯曲では、主人公の朱雀経隆が国家のために個人の忠誠を貫こうとする姿が描かれており、経隆の忠誠が引き起こす悲劇や葛藤が重要なテーマとなっています。彼は、専横な政治家の田淵首相を失脚させるために暗躍した後も、陰ながら天皇に仕えようとし、忠義の道を選びます。しかし、この選択は道徳的ジレンマを伴い、のちに家族の惨劇へとつながります。

各幕の展開

• - 第1幕: 時は1944年の春、朱雀侯爵邸にて、経隆と彼の息子経広の会話から始まります。経広は海軍予備学校に志願し、その赴任先が危険な土地であることが知らされます。経隆は父の立場から息子を守ることができず、彼の決意を尊重します。

• - 第2幕: 時は秋、経広が赴任する地の危険性が浮き彫りになり、家族の間で緊張が生まれます。経広の恋人の璃津子が婚約を申し出る一方、経隆は家族の安全を最優先しようとしますが、彼自身の忠誠が蛮行を招く結果となります。

• - 第3幕: 1945年の夏、経広は南方で戦死します。残された経隆は、息子を救えなかった自責の念から痛む心情を描きつつ、彼のフラストレーションが全家庭に影を落とします。失ったものへの悲しみが苛烈です。

• - 第4幕: 最終幕では、経隆が焼け跡の中で、天皇の神聖さと共に自らの存在を問い直します。雪の中で奏でられる琵琶の音は、彼に決定的な罪の意識を呼び起こし、璃津子からの過酷な言葉が彼を責め立てます。経隆の自己認識は、より深い悲劇的な感情をもたらします。

物語のテーマ

この戯曲の主題は、「忠義」の複雑さとその受動性にあります。三島は、忠義はしばしば形式的なものであると考えつつ、慎重にその意義を探索しています。特殊な歴史的背景を持つキャラクターたちが日本の国体と天皇制に対する忠誠の姿勢を反映し、三島独自の視点を持つ本作は、文化的・歴史的意義を持った深刻な作品です。

発表と評価

初演は1967年10月13日、劇団NLTによって行われました。発表当初から評価は高く、特に三島の犠牲者としての孤独や社会との葛藤が、多くの批評家の心を掴みました。また、三島は自身のノスタルジーを作品に込めていると公言しており、彼の私的感情が反映されています。

『朱雀家の滅亡』は三島由紀夫のテーマである美意識、忠義、そして国家と個人のジレンマが見事に結実された戯曲であり、多面的な解釈の余地を残す一作として、今日でも多くの読者や観客に影響を与えています。

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