朽葉

「朽葉（くちば）」とは、日本の古くから伝わる伝統色の名前の一つです。その名の通り、朽ちた葉の色を連想させる色ですが、実は時代によって異なる色合いを指していました。この文章では、「朽葉」が持つ歴史的な背景と、色の変化について詳しく解説します。

平安時代の「朽葉」

平安時代、貴族の間では色彩豊かな着物が好まれ、「朽葉」もその一つとして使われていました。この時代の「朽葉」は、黄赤系統の色であり、紅葉した多様な樹木の色に由来しています。特に、黄朽葉、赤朽葉、さらには青朽葉（緑色系統）など、そのバリエーションは「朽葉四十八色」と言われるほど多彩でした。これらの色は、主にクチナシやベニバナといった植物染料を使い、重ね染めによって表現されていました。平安時代の貴族は、鮮やかな黄赤色を非常に好み、イチョウなどの黄葉を指していた「もみじ」が、カエデなどの紅葉を指すようになった背景には、この鮮やかな黄色系統の色を指す「朽葉」が使われたことが影響していると考えられています。

また、平安時代には有職故実（ゆうそくこじつ）に基づいた衣装の色目としても、「朽葉」は重要な役割を果たしていました。「朽葉色の襲（かさね）」は、表が朽葉色で裏が黄色、「赤朽葉」は表が赤朽葉で裏が黄色、「青朽葉」は表が青朽葉で裏が黄朽葉とされ、それぞれ秋に着る衣装に用いられました。さらに、「花山吹」という色も、表が黄朽葉または薄朽葉、裏が朽葉または黄色とされ、これらの色彩は、当時の貴族たちの美意識を象徴するものでした。

江戸時代の「朽葉」

時代が下り、江戸時代になると、「朽葉」の色は変化を見せます。染色に関する文献には、「黄枯茶（きがらちゃ）」という色を指す別名として「朽葉」が登場します。黄枯茶は、黄色に染めた布の上に薄い藍を重ねて染めることで生まれる緑がかった茶色です。この時代の「朽葉」は、平安時代の鮮やかな黄赤色とは異なり、朽ちた葉の色に近い茶褐色へと変化しました。これは、単に「朽葉」という言葉から連想された色であり、平安時代の「朽葉」とは別系統の色です。江戸時代には、女性の着物の地色として比較的よく使われていたとされています。

近似色と現代の「朽葉」

現代において、「朽葉」は一般的に茶色や小豆色、ラセットブラウンに近い色として認識されています。これらの色も、朽ちた葉を連想させることから、「朽葉」のイメージを補強する役割を果たしています。

「朽葉」という色は、その名前から連想されるように、落ち葉の色を表現する言葉です。しかし、その具体的な色合いは、時代とともに変化してきました。平安時代には鮮やかな黄赤色を指していた「朽葉」が、江戸時代には茶褐色へと変化した背景には、社会の変化や人々の美意識の変化が影響していると考えられます。

参考文献

近江源太郎・監修 『色々な色』 光琳社出版 1996年 ISBN 4771302324
清野恒介・島森功 『色名事典』 新紀元社、2005年7月。ISBN 4-7753-0384-8。
永田泰弘・監修 『新版　色の手帖』 小学館 2002年 ISBN 4095040025
福田邦夫・著 『色の名前はどこからきたか』 青娥書房 1999年 ISBN 4790601803
福田邦夫・著 『色の名前507』主婦の友社 2006年 ISBN 4072485403
藤井健三・監修 『京の色事典330』 平凡社 2004年 ISBN 4582634125

関連項目

色
色名一覧
日本の色の一覧
北条綱成 - 朽葉色に染めた旗を指物としたことから、その武勇を「地黄八幡」と称えられた。

「朽葉」は、単なる色名にとどまらず、日本の歴史や文化、人々の美意識を映し出す鏡のような存在です。その変遷をたどることで、私たちは日本の色彩文化の奥深さを垣間見ることができます。

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