杉山杉風

杉山杉風（すぎやま さんぷう）

杉山杉風は、正保4年（1647年）に生まれ、享保17年（1732年）に没した江戸時代の俳人です。蕉門十哲の一人として、松尾芭蕉を経済的に支援し、その俳風を忠実に守り続けた人物として知られています。

生涯

杉風は、江戸日本橋小田原町の魚問屋・杉山賢永の長男として生まれました。実家は幕府御用を務めるほどの富商で、父も俳諧を嗜む文化的な環境で育ちました。当初は談林派の俳諧を学びましたが、寛文12年（1672年）に松尾芭蕉と出会い、その門下に入ります。

蕉門においては最古参の一人であり、芭蕉の才能を早くから見抜き、深川六間堀の生簀の番屋（芭蕉庵）を提供するなど、経済的な援助を惜しみませんでした。芭蕉が『おくのほそ道』の旅に出立した際の「杉風が別墅」も、杉風が所有していた採荼庵であると考えられています。

天和の大火で芭蕉庵が焼失した際には、芭蕉は甲斐谷村藩家老の高山麋塒のもとに身を寄せましたが、その間も杉風は宝井其角による『虚栗』の編纂を支援するなど、蕉風の発展に貢献しました。杉風の篤実な人柄は芭蕉からの信頼も厚く、「去来は西三十三国の俳諧奉行、杉風は東三十三国の俳諧奉行」と評されたという逸話も残っています。

俳風と門人

杉風の俳句は、「軽み」を特徴とし、師である芭蕉の俳風を忠実に守り続けました。宝井其角や服部嵐雪が蕉風の変化についていけなかったのに対し、杉風は一貫して芭蕉の教えに従いました。元禄7年（1694年）には、江戸蕉門の句を集めた『別座鋪』の編集に協力しましたが、この「軽み」の実践が嵐雪らとの間に軋轢を生む原因となりました。

芭蕉の死後、江戸蕉門は分裂しましたが、杉風は蕉門の古老として独自の勢力を保ちました。家業を長女の婿養子に譲った後は、一元と名を改め、晩年は蓑杖、蓑翁などの号を用いて隠居生活を送りました。享保17年（1732年）、86歳で没し、築地本願寺内の成勝寺に葬られました。

杉風の門下からは、中川宗瑞（白兎園）が出ており、その俳風は後世にも受け継がれました。

業績と評価

杉風は、俳人としての活動のほか、遠州流の茶道を嗜み、狩野昌運に絵を学ぶなど、多才な一面を持っていました。特に、杉風が描いた芭蕉像は、写実的で芭蕉の風貌をよく伝えていると高く評価されています。

森川許六は、杉風を「二十余年の高弟、器も鈍ならず、執心もかたの如く深し。花実は実過ぎたり」と評し、その才能と忠実さを評価しました。後世の俳諧師からも、その俳風や芭蕉への貢献について様々な評価がなされています。

代表句

がつくりと抜け初むる歯や秋の風
朝顔やその日その日の花の出来
橘や定家机のありどころ
時雨づく雲にわれたる入日哉
鳴く千鳥富士を見かへれ塩見坂
襟巻に首引き入れて冬の月
春雨や鴬這入る石灯籠
ふり上る鍬の光や春の野ら
うの花にぱつとまばゆき寝起哉
痩せ顔に団扇をかざし絶し息

杉山杉風は、芭蕉の精神を理解し、それを俳句を通して表現し続けた俳人として、その名は後世にまで伝えられています。

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