杉本直治郎

杉本直治郎は、1890年に滋賀県で生まれ、1973年に京都市で亡くなった日本の歴史学者・東洋学者です。広島大学の名誉教授であり、号は「南翁」と称しました。彼の専門は、南海史と東西交渉史であり、特に東南アジア地域の歴史研究において、その先駆的な役割を果たしました。

生涯

滋賀県師範学校を卒業後、教職を経て広島高等師範学校に進学しました。その後、京都帝国大学文学部で桑原隲蔵に師事し、歴史学の研究に励みました。1929年には広島文理科大学の教授に就任し、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

1945年8月6日、広島に原爆が投下された際、杉本は自宅で被爆しました。爆心地から1.7kmという至近距離でありながら、奇跡的に命を取り留めました。この被爆体験は、彼の人生に大きな影響を与えたと考えられます。その後、広島市が編纂した『原爆体験記』に「原爆に遭った日」という文章を寄稿し、その時の状況を詳細に記述しています。

戦後、広島文理科大学が広島大学に移行すると、杉本は引き続き同大学で教鞭を執りました。その後、広島文教女子大学の教授となり、1973年に狭心症のため83歳で亡くなりました。

研究業績

杉本直治郎の主な研究分野は、東南アジア史と東西交渉史です。特に「南海」地域、つまり東南アジアの歴史に焦点を当て、その研究を深めました。戦後の日本における東南アジア史研究の先駆けとして、多大な貢献を果たしました。

彼の研究資料は、広島大学附属図書館に「杉本文庫」として寄贈され、一般に公開されています。この文庫は、東南アジア史研究における貴重な資料であり、多くの研究者に活用されています。

著書

杉本は、多くの著書を執筆しました。主な単著には以下のようなものがあります。

『阿倍仲麻呂伝研究:朝衡伝考』 (1940年): 阿倍仲麻呂の生涯を詳細に研究した著書です。
『東南アジア史研究』 (1956年): 東南アジアの歴史に関する研究成果をまとめた一冊です。
『真如親王伝研究:高丘親王伝考』 (1965年): 真如親王の生涯を考証した研究書です。

また、共著としては以下のものがあります。

（金永鍵：共著）『印度支那に於ける邦人発展の研究 : 古地図に印されたる日本河に就いて』(1942年)：インドシナにおける日本人発展の歴史を研究したものです。

参考文献

杉本直治郎の研究や業績に関する参考文献は以下の通りです。

『東南アジア史学会会報』20号（1973年11月）: 高橋保、伊東隆夫、丹羽友三郎による追悼文が掲載されています。
広島大学附属図書館（編）『広島大学杉本文庫目録』(1975年)：杉本文庫の資料目録です。

関連人物

杉本と同じく、被爆した広島文理科大学・広島高師の教員には、小倉豊文、佐藤井岐雄、長田新、森滝市郎、山本空外、戸田清などがいます。

外部リンク

コトバンク「杉本直治郎」
日本の大学所蔵特殊コレクション - 杉本文庫（杉本直治郎）

杉本直治郎は、激動の時代を生き抜き、東南アジア史研究の発展に尽力した偉大な学者でした。彼の残した業績は、今日でも多くの研究者に影響を与え続けています。

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