李憲

李憲：謙虚と才能に彩られた皇族の生涯

李憲（り けん）は、唐の第5代皇帝睿宗（えいそう）の長男として生まれました。母は劉皇后、弟には後の玄宗（げんそう）となる李隆基（り りゅうき）がいます。彼はその生涯において、皇位継承の波に翻弄されながらも、自らの才能と謙虚さによって、周囲からの尊敬を集めました。

生涯

李憲は、初め李成器（り せいき）と名乗り、永平郡王（えいへいぐんおう）に封じられました。684年に父が即位すると皇太子に立てられます。しかし、690年に祖母である武則天（ぶそくてん）が帝位を簒奪すると、睿宗は皇嗣（皇太子）に、李憲ら兄弟は皇孫（こうそん）に格下げとなり、693年には寿春郡王（じゅしゅんぐんおう）とされました。

705年、中宗（ちゅうそう）がクーデターにより復位すると、蔡王（さいおう）に封じられますが、これを辞退。710年に改めて宋王（そうおう）に封じられました。しかし、その年に中宗が急死し、皇后の韋后（いこう）が帝位を簒奪しようと企てたため、弟の李隆基がクーデターを起こし、韋后らを殺害。睿宗を復位させました。皇太子の地位は当然、元の皇太子であった李憲に戻ると思われましたが、彼は自らが復位に何の功績もなかったことを理由に、皇太子の地位を李隆基に譲ったのです。

李憲の謙虚な態度は、弟である李隆基に深く感銘を与えました。李隆基は即位後、李憲を太子太師（たいしほう）、雍州牧（ようしゅうぼく）、揚州大都督（ようしゅうだいととく）などに任命し、翌年には太子賓客（たいしひんかく）としての待遇を与えました。さらに、李憲が李隆基に臣下の礼を取る必要がないように配慮しました。713年に李隆基が玄宗として即位すると、李憲は司空（しくう）・太尉（たいい）となり、開府儀同三司（かいふぎどうさんし）として遇せられました。716年には、継母である皇后の尊称「昭成（しょうせい）」を避けて、名を憲と改めました。その後、寧王（ねいおう）となり、二州の刺史（しし）を務めました。721年には太常卿（たいじょうけい）、733年には再度太尉となっています。

李憲は音楽に造詣が深く、特に笛の名手として知られていました。また、常に慎ましい態度を心がけ、政治に関わることを避けていました。そのため、彼と玄宗の間を裂こうとする讒言（ざんげん）がなされることがあっても、玄宗は全く信じようとはせず、李憲が臣下の礼を取ろうとすると、いつもこれを止めさせて、弟としての立場を尊重し続けました。

742年1月5日、李憲は63歳で病死しました。玄宗は深く悲しみ、臣下の反対を押し切って、李憲に譲皇帝（じょうこうてい）という諡（おくりな）を贈り、皇帝の衣装を着せて、皇帝に准じた葬儀を行わせました。また、先に亡くなっていた妃の元氏（げんし）にも恭皇后（きょうこうごう）という諡を贈りました。墓は「恵陵（けいりょう）」と称され、皇帝に准じた扱いを受けました。現在も陝西省渭南市蒲城県（かほじょうし）の北西にその跡が残っています。養子の寿王（じゅおう）李瑁（りぼう、玄宗の第18子）は喪に服しました。

李憲の長男である李璡（り しん、小字は花奴）は、杜甫（とほ）の『飲中八仙歌（いんちゅうはっせんか）』に名を連ねるほどの人物で、音楽や芸能に精通していました。

子女

男子
汝陽郡王（じょようぐんおう）李璡 - 初名は李嗣恭、後に李淳に改名。
済陰郡王（さいいんぐんおう）李嗣荘
寧王李琳
申王李璹
同安郡王李珣
隴西郡公（ろうせいこう）李瑀 - 後に漢中王に昇格し、子孫は繁栄。
蒼梧郡公李玢
晋昌郡公李珽
魏郡公李琯
文安郡公李璀
女子
吉安県主
金山公主 - 突厥の默啜可汗（ばくせつかがん）に嫁いだが、叔父の玄宗が即位すると離縁されて帰国。

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