司空

司空（しくう）とは

司空は、古代中国に存在した官職の一つです。その職務内容は時代によって大きく異なり、土木工事を司る役職から、政府の最高位の役職の一つとして扱われることもありました。

西周から漢初までの司空

司空の起源は西周時代に遡ります。この時代の金文史料では「工」の字で記され、土木工事や各種の工作を担う役職でした。戦国時代には、秦や楚を除く多くの国に設置され、地方の様々な役所にも司空が存在していました。例えば、「都司空」「次司空」「国司空」「県司空」「邦司空」「中司空」「郡司空」「宮司空」「獄司空」など、多岐にわたる司空が存在していたことが記録されています。

秦漢時代には、官の工事は刑徒を動員して行われることが一般的であり、司空は刑徒の管理と土木工事の両方を担当していました。しかし、前漢後期になると、刑徒の管理と土木工事の役割が分離するようになり、各地の「司空」という名称は次第に使われなくなりました。

儒教経典における司空

儒教の経典にも司空に関する記述が見られます。『書経』の「堯典」には、舜帝が禹を司空に任命し、治水と治土を命じたという記述があります。また、『書経』の「洪範」では、夏・殷が禹の時代から受け継いだ八政の4番目に司空が挙げられています。ただし、堯・舜・禹は伝説上の人物であり、これらの記述は史実とは異なります。

『礼記』の「周礼」には、理想化された周の制度の中で、司空が最高官である六官の一つとして登場します。この司空は、土木工事に関わる多くの官を率いるとされています。

また、偽書である『周官』では、司空は三公九卿の一つとして位置づけられ、国土を管理し、人民を住まわせ、土地を適切に活用する役割を担うとされました。これらの記述は、儒教的な理想に基づいて創作されたものであり、実際の制度を反映したものではありません。

漢代の大司空と司空

儒教経典に書かれた架空の司空は、後代に現実の官職として取り入れられることになります。前漢末、成帝の時代に御史大夫が「大司空」と改称されたのがその始まりです。当初は「司空」に改称しようとしたが、獄司空との区別のため「大」の字が加えられたという逸話があります。その後、大司空は御史大夫の名称に戻されたり、再度大司空に改称されたりを繰り返しました。大司空は、大司徒・大司馬とともに三公の一つとして扱われました。

新の時代にも、三公として大司馬、大司徒、大司空が設置されました。後漢の時代になると、大司空は「司空」と改称され、以後、大司空という名称は使われなくなりました。

後漢末、曹操によって三公制度が廃止されると、司空も一時的に設置されなくなりましたが、魏の時代に三公制度が復活すると、再び司空が設けられました。

南北朝以降の司空

南北朝時代以降、司空は高官の一つとして設置されるようになりましたが、その職掌は時代や国によって様々でした。三公の一つとされることもあれば、それより下の官とされることもありました。南朝の宋では、軍の最高職として司空が置かれました。

隋では、司空は名誉職となり、兵権は持っていませんでした。明や清の時代には、工部尚書の別称として用いられました。

このように、司空は古代中国において重要な官職の一つであり、その役割は時代とともに大きく変化しました。土木工事を司る役職から、政府の最高位の役職へと変遷を遂げた司空の歴史は、中国の官制史を理解する上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

脚注

『書経』
『史記』
『漢書』
『礼記』

参考文献

中央研究院・歴史語言研究所「漢籍電子文献資料庫」
司馬遷『史記』
小竹武夫訳『史記』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1995年。
吉田賢抗『史記』（本紀ぬ）、明治書院、1973年。
班固著、『漢書』
小竹武夫訳『漢書』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1998年。
大庭脩監修、漢書百官公卿表研究会『『漢書』百官公卿表訳注』、朋友書店、2014年。
加藤常賢『書経』上・下、新釈漢文大系25・26、明治書院、1983年・1985年。
宮宅潔「『司空』小考-秦漢時代における刑徒管理の一斑-」（初出:『張家山漢簡による中国漢代制度史の再検討』平成16-19年度科学研究費補助金（基盤C）研究成果報告書（2008年）/所収:宮宅『中国古代刑政史の研究』（京都大学学術出版会、2011年） ISBN 9784876985333 第5章）

関連項目

中国の宰相
洪範九疇
唐名

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