李沢楷

リチャード・リー（李 沢楷）の軌跡

リチャード・リー（Richard Li Tzar Kai/李 沢楷）は、香港の実業家、慈善家であり、パシフィック・センチュリー・グループ（PCG）の創設者兼会長です。彼は、アジア全域にわたるテレビネットワーク[STAR TV]の創設を皮切りに、数々の事業を成功させてきました。そのキャリア、生い立ち、社会貢献について詳しく見ていきましょう。

キャリアの始まりとPCGの設立

1990年代初頭、リーは[STAR TV]を設立し、アジアにおけるメディア業界に革命をもたらしました。その後、1993年に自身の投資グループであるPCGを設立。PCGを通じて、PCCWやHKT Trustといった通信・テクノロジー企業を設立し、事業を拡大しました。2010年にはAIGインベストメンツの資産運用事業を買収し、パインブリッジ・インベストメンツに改名。さらに2013年には、INGグループの保険事業を買収し、FWDグループを設立し、2019年には運用資産が300億ドルを超えるまでに成長させました。

現在、リチャード・リーは、PCG、PCCW Ltd.、HKT Limitedの会長を務め、パインブリッジ・インベストメンツなどの企業の取締役も兼任しています。フォーブス誌は、2020年に彼の純資産を44億ドルと推定し、香港で最も裕福なビジネスマンとして20位に選出しました。

生い立ちと学歴

1966年、香港で実業家の李嘉誠の息子として生まれたリチャード・リーは、幼少期を香港で過ごし、聖保羅男女中学に通いました。13歳で香港を離れ、カリフォルニア州のメンロ・スクールで教育を受けました。高校時代にはマクドナルドでのアルバイトやゴルフ場でのキャディーの経験もあります。1987年までスタンフォード大学でコンピュータ工学を学びましたが、3年後に中退しました。

PCGの創業と事業拡大

大学中退後、カナダのトロントにある投資銀行で資産管理を担当し、1980年代にカナダ国籍を取得しました。その後、香港のハチソン・ワンポアでファンド管理部門に所属し、1993年までエグゼクティブ・ディレクター、2000年まで副会長を務めました。1990年にリーは、アメリカのテレビをストリーミングするアジア地域の衛星テレビネットワーク、STAR TVを設立し、これは「大規模な文化変革を引き起こし、2005年までに50カ国以上の国々に西洋の大衆娯楽を大量に注入した」と評価されています。

STAR TVの売却で得た資金をもとに、1993年にPCGを設立。以降、不動産、金融サービス、テクノロジー、メディア・通信への投資を積極的に行いました。

PCCWとHKT Trust

1996年、リーはPacific Century CyberWorks（PCCW）を設立し、1999年から会長を務めています。2000年にはケーブル＆ワイヤレスHKTを380億米ドルで買収し、香港最大の固定回線網および無線通信事業者となりました。2004年には、不動産会社PCPDを独立させ、2019年まで会長を務めました。

2011年には、PCCWテレコミュニケーションズの新規株式公開を成功させ、HKT Trustと共に香港初の上場企業信託を設立しました。HKTはその後、テルストラの子会社であるCSLニューワールド・モビリティを買収し、事業を拡大しました。2015年には、PCCW MediaがモバイルビデオプロバイダーのVuclipを買収し、ストリーミングサービスのViuをローンチ。Viuはその後、世界24市場に展開されました。

パインブリッジとFWDグループ

2009年、PCGはAIGインベストメンツの資産運用事業を買収し、パインブリッジ・インベストメンツと改名しました。2013年には、INGグループの香港、マカオ、タイの保険事業を買収し、FWDグループとして統合しました。FWDは、スイス再保険会社の支援を受けながら、東南アジアを中心に事業を拡大。2016年までに、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、日本に進出しました。

近年の動向

近年では、北海道ニセコの花園リゾートの開発にも力を注ぎ、温泉やレジデンスを含むパークハイアットホテルを建設しました。また、FWDの東南アジア市場での拡大に注力し、インドネシアのPT Commonwealth Lifeなどの大手銀行の買収を進めてきました。2019年6月時点で、FWDの運用資産は約300億ドルに達しました。

さらに、2019年にはHKTが香港初の認可仮想銀行を設立し、2020年には5G無線サービスを開始しました。また、国際デジタル保険グループ「ボルテック」を発足させ、デジタル分野での事業展開も進めています。フォーブスによると、2020年の彼の純資産は44億ドルと推定され、香港の富豪ランキングで20位、世界の億万長者リストで401位にランクインしました。

社会貢献と公的立場

リチャード・リーは、世界情報基盤委員会、国連、戦略国際問題研究センターの国際評議員グループのメンバーを務め、以前は世界経済フォーラムの総裁、APECビジネス諮問会議の香港政府代表も務めていました。また、香港コンピュータ協会の正会員でもあります。

社会貢献活動としては、カナダ国立芸術センター財団に寄付を行い、若い音楽家を支援する「リチャード・リー・ヤング・アーティスト・チェア」を設立しました。PCCWを通じて、SARS発生時やコロナ禍での支援活動を行い、医療従事者やNGOに医療用マスクを寄贈するなど、積極的に社会貢献活動を続けています。

評価と受賞

2011年には、アジアにおけるケーブル・衛星放送協会から生涯功労賞を受賞しました。また、エリザベス女王2世から、カナダへの優れたビジネスと慈善活動への貢献に対して、ダイヤモンド・ジュビリー勲章を授与されています。

リチャード・リーは、その革新的な事業展開と社会貢献活動により、世界的に高く評価される実業家です。彼の今後の活躍からも目が離せません。

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