ハチソン・ワンポア

ハチソン・ワンポア・リミテッド（Hutchison Whampoa Limited）の軌跡

ハチソン・ワンポア・リミテッド（HWL）は、かつて香港に存在した多国籍コングロマリットです。その起源は19世紀に遡り、イギリス人商人ジョン・ハチソンによって設立された企業が、その後の変遷を経て、多岐にわたる事業を展開する巨大グループへと成長しました。

創業から戦後まで

HWLの歴史は、1861年に設立された香港黄埔ドック（Hongkong and Whampoa Dock Company (HWD)）と、1877年のハチソン・インターナショナル（Hutchison International（HI））という2つの企業に始まります。

アヘン戦争後、香港を拠点としたハチソンは、香港初の法人としてHWDを設立し、その後、香港初の埠頭を建設、海運業の基礎を築きました。HIは小売・卸売業を担い、広東と九龍を結ぶ鉄道の敷設など、事業を拡大。これらの事業は、後のHWLの中核となりました。

1960年代には、ダグラス・クレーグ会長の下、薬局チェーンのワトソンズを買収するなど事業を拡大しましたが、オイルショックにより経営が不安定化。香港上海銀行の救済を受け、不採算子会社の大規模なリストラを実施しました。1977年、HIがHWDを吸収合併し、HWLが誕生。翌年には株式を上場し、1979年には長江実業が傘下に入りました。

長江実業グループへ

1979年、李嘉誠率いる長江実業がHWLの株式を取得。李嘉誠は、難民として香港に移り住み、造花事業で成功を収めた人物です。1981年には李嘉誠がHWLの会長に就任し、経営の主導権を握りました。

その後、HWLは電力事業や移動通信事業へ進出。1985年には香港電灯を子会社化し、香港初の携帯電話サービスを開始するなど、事業の多角化を加速させました。これにより、HWLは巨大企業へと成長を遂げ、その後の通信事業における世界的展開への足がかりとなりました。

移動通信事業の拡大

1990年代、HWLは移動通信事業を積極的に展開しました。アジアサット1号の打ち上げや、スターテレビの放送網への出資、イギリスの主要港フェリクストウの買収などを通じて、国際的な事業展開を加速させました。

1996年には、Orange plcを上場させ、英米圏での携帯電話サービスを開始。また、ワトソンズの営業圏をウクライナやバルト三国にまで拡大するなど、多岐にわたる事業で成功を収めました。

1997年にはボイスストリームの前身企業を買収し、アメリカ市場へも進出。その後も、Orange株の売却やボーダフォン株の取得などを通じて、通信事業の再編を進めました。しかし、グローバル・クロッシングとの合弁事業の破綻や、第3世代移動通信システム（3G）への積極的な投資など、課題も抱えました。2015年にはテレフォニカによるO2の買収提案が、欧州委員会の反トラスト委員会によって阻止される出来事もありました。

事業再編

2015年1月、長江実業は事業再編の一環としてHWLの全株式を取得し、両社を合併。新会社CKハチソン・ホールディングスが設立されました。これにより、HWLは歴史に幕を閉じ、新たなコングロマリットとして再出発することとなりました。

五大事業

HWLは、港湾、エネルギー・インフラ・投資、通信、不動産とホテル、小売業の5つを主力事業として展開。世界56か国に事業所を持ち、22万人以上の従業員が勤務していました。

湾口オペレーター: 和記黄埔港口（HPH）は、世界有数のメガターミナルオペレーターとして、世界の主要なコンテナ港でターミナルを運営していました。
インフラ: 長江基建有限公司（CKI）は、交通、エネルギー、水道事業など、多角的なインフラ事業を展開。香港電燈集団有限公司（HEH）の株式を保有し、香港の電力供給にも貢献していました。
移動通信: 「3」ブランドで3G事業を展開し、世界各国でモバイル通信事業を展開。Orangeのブランドも、元々はHWLのイギリスでのブランドでした。
不動産: 和記黄埔地産集団は、香港や中国本土、イギリスなどで不動産開発や投資を行っていました。
* 小売業: A.S.ワトソンズは、アジアやヨーロッパで、ドラッグストアやスーパーマーケット、化粧品店など、多岐にわたる小売店舗を展開していました。

HWLは、その多角的な事業展開と国際的な活動により、世界経済に大きな影響を与えた企業でした。その歴史は、香港の経済発展とともに歩んだものであり、現在のCKハチソン・ホールディングスへと引き継がれています。

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